めぐりあい(仮)





「ごめん、お待たせ」




「遅い。てか、もう一緒に帰らなくていいから」





そう言うあたしをまじまじと見つめ。





「また、何かやられた?」




「思い切り、汚された」





ほら、ここ。と、


濡れた制服を見せる。


朝陽はこういうことに


遭っていることを知っていて。


今度はちゃんと言う、とか


言いつつ、いつもタイミング悪く


どこかへ行ってしまう。






「ごめん、吉川」




「もういい。帰る」





若干腕が冷えた気がする。


歩きながら、


朝陽はあたしの制服に


ついている落ちない粉を、


必死に落としている。






「いいって、朝陽」




「いや、よくねーって。まじ、ごめん」




「もう歩きにくいからやめて」





無理矢理振り払って、


あたしは前を歩く。


後ろで着いて来る朝陽は、


すごく悲しそうな顔をしていて。





「いつまで着いて来るの」




「家まで」




「何で来るの。もう、来なくていいってば」




「別にいいだろ」





分かってる。


そんな優しさに甘えているってこと。


だけど朝陽は友だちだから。


きっと彼も、そういうつもりだから。






「これも持っとけ」




朝陽は自分のポケットにあった


カイロをあたしに渡す。


今日だけで、朝陽から


カイロをもらうのは3回目。


どんだけ持ってんの、って。


いつも笑う。





「この後、どうすんの?」




「どうしよう。どっか寄る所、ある?」





そんな会話をしている時。


あたしの鞄の中で、


携帯が震えた。


あたしは携帯を取り出し、


画面を見て少し固まる。






「誰?あいつ?」




「違う」





朝陽の言うあいつじゃない。


蓮哉じゃない。


かかってきた相手は、


悠太郎で。





「出るな」




「……でも、」




「今更関係ないだろ、そいつとは終わったんだから」





終わったのは、確かに終わった。


だけど、関係があったのは、あったから。


あたしは朝陽を見つめて。






「ごめん、朝陽」





ちょっと待ってて。


朝陽に背を向け、


あたしは電話に出た。


長いコールの末に聞こえた


悠太郎の声は。






『妃名子?』





すごく悲しそうだった。






「久しぶりだね、悠太郎」




『元気にしてた?』




「超元気だよ。頑張ってる」





ねぇ、悠太郎。


あたしのお腹には、


あなたとの赤ちゃんがいます。





『今、何してた?』




「友だちと一緒に帰ってる所だよ」





決して言えないけれど。


だけど、あたしとあなたは、


確かに繋がってた。







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