めぐりあい(仮)





『妃名子、少しだけ会えない?』




「え、今から?」





朝陽の顔を見ると、


何かを察したのか、


首をずっと横に振っている。






『この間、ちゃんと話せてなかったから』





「そうだね、確かに」






あの時は、偶然恵莉香さんが来たから、


最後まで話せず無理矢理終わることに


なっちゃったんだ。






『何時でもいい。会えない?』




「じゃあこれから向かうよ。今お家?」




『今帰って来た所』




「じゃあ、待ってて」





あたしはそう言って、


電話を切った。






「吉川、待てよ。行くのか?何で?」




「朝陽には関係ないでしょ?」




「俺のことはどうでもいいよ。そうじゃなくて、会って吉川が辛くないのか?」





朝陽はそう言って、


すごく悲しそうな顔をした。


あたしは朝陽の悲しそうな顔を、


何度見て来たんだろう。






「ちゃんと最後にしたいから」




「だってもう終わったんだろ、そいつとは」




「朝陽とあたしは切れないけど、悠太郎とは本当に終わりなの。ちゃんと終わらせないと」





分かって?


そう言うと、朝陽は悔しそうに、


渋々頷いてくれた。





「じゃあ、あたしこっちだから」




「そいつの家まで送る」




「いい、1人で行きたい」





ごめんね、朝陽。


そう言うあたしに、


朝陽は笑ってくれる。






「気を付けて行って来い」




「大丈夫。また連絡するね」




「いつでも待ってるからな」





早く行け、と。


朝陽はあたしを見送ってくれて。


あたしは朝陽の視線を感じながら、


悠太郎の家に向かった。






「また歩くことになるなんて」






もう通ることはないと思った、


この道をまた歩いている。


不思議と足取りは軽かった。


覚悟が決まっているから。


ううん、そうじゃない。


今日は1人じゃなく、2人だから。


赤ちゃん、ママね。


今からあなたのパパに、


お別れを言いに行くのよ。


ママは大丈夫。


あなたがいれば、何も怖くないわ。





「いらっしゃい」




「早かったでしょ?近くまで来てたから」





悠太郎の家の玄関に立ち、


懐かしい感じを体で感じる。


分かるんだ。


初めてここに来た時の、


気持ちが今でも分かる。


ドキドキして、苦しくて。


だめだと分かっていながら、


悠太郎の手に堕ちた。


そんなあたしは今、


違う人を想っている。





「外、寒かっただろ?」




「うーん、でもカイロ持ってたし、大丈夫だったかな」





悠太郎はあたしに温かい飲み物を


出し、向かい側に腰を下ろした。


悠太郎の向こうにあるテラスを見て、


夏にしたバーベキューを思い出す。


あの時は楽しかった反面、


恵莉香さんになりたいと思って。


だけどなれないって実感して、


勝手に悲しくなったりもした。


あたしの背中にある玄関から、


何回もこの部屋に足を運んだ。








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