めぐりあい(仮)
「妃名子、ごめん」
「ん?」
「やっぱり妃名子のこと、終わりになんて出来ない」
何の前触れもなく、
そう言った悠太郎の目は、
どこか不安そうで。
今までだったら、きっと
この人を抱きしめていた。
「妃名子と離れてみて分かった。やっぱり、いないとだめなんだ」
だけど今でも思う。
この人を好きになってよかった。
出会えてよかった。
でも、もう、好きじゃない。
「悠太郎」
何も答えられない。
何を伝えることが、
1番彼のためになるのか。
ずっと考えながら、
何も浮かばず。
「ごめんなさい」
ただ、謝るしかなかった。
「悪い所があるなら、直す。恵莉香とのことも、ちゃんと考える。妃名子、終わるなんて言わないで」
弱い部分を滅多に見せない悠太郎が、
今あたしに縋ってお願いしている。
あたしはそこまでさせるほど、
悠太郎に相応しい女じゃないのに。
「悠太郎と、この部屋で過ごしたこと、今でも覚えてる」
一緒にご飯を食べて、
一緒にお風呂に入って。
一緒にベッドで眠って、
あなたをいつも想った。
「こんなに幸せな気持ち、教えてくれたのは悠太郎だったよ」
悠太郎しかいなかった。
あの時のあたしには、
悠太郎だけでよかった。
「辛いことも悲しいことも、悠太郎とだから乗り越えられた」
だけど今のあたしには、
悠太郎じゃない。
蓮哉に出会ってしまったから。
蓮哉を好きだと気付いてしまったから。
「妃名子、もう1度だけ、俺とやり直して」
そんな悠太郎の悲痛な思いでさえ。
もうあたしを動かすことはない。
「ごめんね、悠太郎」
言うか言わないか、
すごく悩んだけど。
嘘を、付きたくない。
「あたし、もう悠太郎のこと、想えない」
はっきりとそう言ったあたしを、
信じられないと言いたげな顔で
あたしを見つめている悠太郎。
「ごめんね、あたし」
少しの沈黙の後。
「蓮哉のこと、好きになっちゃったの」
「…蓮…?」
気付いたら、想ってた。
悠太郎しかいないと思っていたあたしを、
変えてくれた人なの。
今すぐにでも会いたい。
触れたいと思うのは、
どうしても蓮哉なの。
「蓮哉が好きなの。だから…」
ごめんなさい。
そう言った瞬間。
突然後ろから誰かに手を引かれ、
思わず立ち上がってしまう。
ソファから離れて、
目の前の何かにぶつかる。
それが誰かに抱きしめられて
いる形になっていて。
「木嶋さん」
声を聞いて、ようやく誰か分かった。
何でここにいるんだろうとか。
どうしてあたしの手を引いてるのだろうとか。
だけど、そんなことどうでもよくて。
「俺が悪いんです」
「蓮……」
確かにあたしを、抱きしめてるのは、
間違いなく蓮哉で。
だけどそこにいることを、
未だに信じられなくて。