めぐりあい(仮)





「俺、妃名子のことが好きなんです」




耳を疑った。


蓮哉が、あたしを、


好きだと言っている。





「いつから?」




「木嶋さんが妃名を知る前から、だと思います」





悠太郎が、


あたしを知る前から。


悠太郎と知り合ったのは、


4月頃だったから。


それよりも前に、


あたしを知っててくれたってこと?





「そんな、前から…」




「ずっと黙っててすいません」





2人のやり取りが進んで行く中、


未だあたしは蓮哉の胸の中で


突っ立ったまま動くことはない。


どうしよう。


何か言わなきゃ。





「俺が、妃名のこと、幸せにしていいですか?」





蓮哉の口から、


次々に嬉しい言葉が出て来る。


知らなかった蓮哉の想いが、


今たくさん露わになる。





「もう俺、木嶋さんに遠慮しません」




「蓮…」





少し間が開いた後。





「妃名子、もう俺とは無理か?」





悠太郎はあたしに、


力のない声で尋ねた。


と同時に、切なくなって、


思わず涙が出た。






「ごめん、悠太郎…」





声が震える。


何か伝えたいのに、


何も伝えられない。





「蓮哉といたい…」




悠太郎を傷付けるのは、


重々承知だ。


だけど、そんなことよりも、


今目の前にいる蓮哉のことを、


愛しくてたまらない。






「妃名子、幸せになって」






悠太郎は最後にそう言った。


それを聞いた蓮哉は、


失礼しますと一言だけ残し、


あたしの手を引いて外に向かった。


慌てることもなく、急ぐこともなく、


ゆっくり合わせるように進んで行く。


エントランスを出て、蓮哉の車の


目の前で一旦止まると。





「妃名」





蓮哉は愛しそうに、


あたしの髪に触れ、


切なそうに見つめた。





「蓮哉…どうして、ここに…」




「あー、それは」





話を聞いて驚いた。


まさか、朝陽が蓮哉の会社に


行っただなんて。





「ものすごい勢いで会社入って来て。受付で、俺を出せって騒いでた」




「え、朝陽そんなことしたの?」





何やってんの。


なんて、思いながら、


少し嬉しかったりして。





「悪ぃ。急に来て」




「ううん、大丈夫」





急にさっきのことを思い出して、


顔が赤くなる。


蓮哉があたしを好きだと言っていた。


現実味がなくて、どこか嘘のようで。


だけど、あたしも好きだけど。


あたしのお腹には、


子どもがいる。


それは隠せない事実。


もし蓮哉の想いが本当だとしたら。


なおさら蓮哉に迷惑をかけられない。





「とりあえず、家でいい?」




「うん、行く」





車に乗り込み、


蓮哉の家に向かうことに。


車内は沈黙なのに、


不思議と苦痛ではない。


ふわふわしてる。


きっと思っているより、


嬉しくて仕方ないんだと思う。






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