めぐりあい(仮)
「蓮哉、ご飯は?」
「食ってない。あるもので何か済まそうかと」
「じゃあ作るね」
気分はなぜか、彼女気取り。
やっと蓮哉の傍にいられる。
隣にいることは、少し前まで、
当たり前だったのに。
こんな些細なことが、
嬉しくて仕方ないんだ。
「今日お母さんは?」
「うーん、最近忙しいのかな、家にいない」
「泊まってく?」
「そうしようかな」
こんな会話も、
前までは普通だったのに。
変な感じ。
「ご飯炊かないとね。蓮哉、先お風呂行く?」
「いい。飯、先で」
そう言いながら、中に入って行く。
蓮哉はあたしの鞄を持って、
部屋の中に入って行き、
あたしはそのまま台所に立つ。
「何しようかなぁ」
冷蔵庫を開け、
意外と食料があることにびっくり。
お味噌もあるし、野菜もある。
何から作ろうかな。
「蓮哉、何でもいい?」
「んー?うわっ、」
部屋の奥で大きな音がし、
蓮哉が痛いと叫んだ。
「もー、何してるの」
呆れながら部屋を覗く。
何に躓いたのか、
蓮哉は床に座り込んでいて。
近くに散乱する、
あたしの鞄の中。
「すね打った」
「もう、自分の家でしょ」
そう言いながら、
散らばった荷物を鞄の中に
入れていく。
すっかり忘れていた。
「…これって、」
鞄の中に入れていた、
母子手帳の存在なんて、
すっかり忘れていた。
蓮哉は床に落ちている手帳を見て、
ずっと黙り込んでしまった。
「妃名、これ…」
「あ、うん…ごめん」
あたしは蓮哉の手から、
母子手帳を奪うと、
鞄にしまって台所に戻った。
ご飯を炊こう。
何合炊こうかな。
「待って、妃名」
「蓮哉はいいから、向こうで座ってて」
気が焦る。
どう伝えるかの前に、
知られてしまった。
気が動転して、
笑顔すら作れない。
「妊娠、してるのか?」
「その話は後でいいでしょ?」
「よくねーだろ。妃名」
「いいんだって…うっ、」
そんな話をしていると、
急に気持ち悪くなり、
その場にしゃがみ込む。
吐き気が収まるまで、
ずっとうずくまる。
それがいつものあたし。
だけどそんなあたしを初めて見る
蓮哉は、心底不安そうな顔で、
あたしを見つめる。
「ごめん、蓮…何でも、ないから」
「何でもなくねーよ」
蓮哉は無理やりあたしを抱き抱え、
部屋を進み、ベッドの上に
連れて行った。