めぐりあい(仮)
あたしの前にしゃがむと、
そっと静かに手を握る。
隣の部屋から漏れる灯り。
薄暗いこの部屋に。
「妊娠、してるのか?」
優しく、蓮哉の声が響く。
「してる」
「木嶋さんの、子どもだよな?」
「そう」
もっと違う形で言いたかった。
あたし、間抜けすぎる。
「隠すつもりはなかったの。だけど、」
「この前、俺の誕生日の時も、このこと分かってたのか?」
「うん。もう病院にも行ってたよ」
そう言うと、蓮哉は溜息をついて、
ばかだと言った。
「寒い中、待つなよ」
「うん、ごめんね」
俯く蓮哉の感情が読めない。
何を考えてるんだろう。
どうすることも出来ず。
「1人で育てるから、大丈夫だよ」
そう言うしかなかった。
いずれ、産むつもりだったし。
悠太郎に言うつもりもないし、
蓮哉に知られることもないと
思ってたし。
それに、迷惑かけられないし。
「ごめんね、好きとか言ってくれたのに」
好きでも、一緒に
いられないこともある。
あたしは自分の感情よりも、
子どものために動かないといけない。
「今日は帰った方がいいかな」
「帰らなくていい」
はっきりした声でそう言うと、
蓮哉はじっとあたしを見つめ。
「木嶋さんの子どもだよな?」
そう聞いて来た。
「そうだよ」
「妃名、今から言うこと、ちゃんと聞け」
何を言われるのか怖くて、
耳を塞ぎたいと思った。
だけど、逃げてばかりも
いられない。
向かわないといけないことが、
今目の前で起きている。
「子どものこと、木嶋さんに言わないんだろ?」
「言うつもりもないし、言いたくない」
「でもその子、産むんだよな?」
「産みたいと思ってる」
子どもに罪はない。
身をもって知ったこと。
「妃名」
「ん?」
大きく息を吸った後。
「俺に父親、やらせて」
蓮哉のその言葉に。
「………れ、ん」
ただ驚いて、
急激に涙が込み上げた。
決意したその表情が、
あたしに伝わった。
「俺が責任持って育てる。父親になる」
「でも…、迷惑が、」
「お前を幸せにする。絶対子どもも幸せにする」
こんなに一生懸命になって、
言ってくれる。
こんな短時間で。
数分で決断するのは、
すごく自分を追い込んでいるはず。
「嬉しいけど、でも蓮哉に迷惑かけたくない」
「俺が一緒にいたい。俺が守りたい。迷惑とか、考えんじゃねえよ」
精一杯の、蓮哉の想いが、
痛いほど分かる。
いいのかな?
蓮哉に甘えても、
いいのかな?