めぐりあい(仮)
お風呂はもちろん、
別々に入り、
髪を乾かしたあたしたちは、
一緒にベッドに入ることに。
「眠い?」
「ううん。何だか寝られない」
真っ暗な部屋に、
微かな月明かりが差し込む。
温かい布団が擦れる音でさえ、
心地よくて仕方ない。
「ごめんな」
「何が?」
蓮哉の腕に頭を乗せ、
少し離れて蓮哉を見る。
はっきり分からないけど、
少し悲しそうな顔をしている。
「家に来てくれたり、連絡してくれたのに、ひどい態度だったよな」
「あー、そのことか」
何だろう。
たくさん悲しい思いをしたはずなのに、
もうどうでもよくなってる。
蓮哉が今目の前にいる。
それだけで辛いことを忘れられている
自分がここにいて。
「俺さ」
逃げてたんだと思う。
掠れる声で、蓮哉は
静かに話し始めた。
「高校生の頃に、好きな子がいて。そいつも不倫してたんだ」
ずっとあたしを見つめたまま、
悲しそうに話す蓮哉。
「それで不倫はやめとけって何回も止めて。で、思いが通じたのか不倫やめるって。俺のこと、好きになったって、そいつが言って」
きっと蓮哉があたしに話すのは、
聞いてほしいだけじゃない。
もっと別の。
何かがあるはず。
「俺、嬉しくて。そいつのこと大事にしようって思った。けど、俺のこと好きになったって言った次の日、また不倫相手と会ってた」
まるで。
あたしみたい。
不倫してて、
不倫をやめて。
蓮哉を好きだと言っている。
あたしみたいだ。
「それでそいつは俺に言ったんだよ。勘違いだったって。俺は不倫相手の変わりだったって」
「そんなっ…」
「情けねえけど。それが今の俺のコンプレックスというか、なんていうか」
分っかんねぇけど、と。
珍しく蓮哉が弱音を
吐いた気がする。
「蓮哉…」
「俺、結局あの時から逃げてんだわ」
そう自分を責めるように、
自分自身をあざ笑う蓮哉。
「あの時の女と、妃名を重ねた」
「蓮…」
「本当あの時、あんなこと言って。電話もメールも返さなくてごめん」
好きだと言われた時よりも。
ごめんと言われている今の方が、
嬉しい気がした。
蓮哉の過去に触れた。
彼の辛さを知れた。
それが無性に嬉しくて。
「大丈夫だよ、蓮哉」
蓮哉の苦しみを知らなかったから。
あたしたちは、1つの壁を
超えたんだよね。