めぐりあい(仮)
「もう1つ聞いて」
「ん?」
「俺、妃名と知り合う前から、妃名のこと知ってた」
「…え、」
「会社の前を通る女子高校生が気になってたわけだ」
ふっと軽く笑う蓮哉は、
何かを決断したみたいに、
吹っ切れたみたいに、
話し始めた。
「妃名がいつも木嶋さんを待ってたカフェ。よく俺も行くし、前通ったりもしてて」
「あ、そうだったの?」
「今までは会社の前を通るだけだった子が、いつからかいつも1人で遅くに時間潰して、携帯に連絡が入ると出て行くその子を、俺は密かに気になってたわけ」
全然気付かなかった。
蓮哉もあの店にいたってこと?
「ま、それから木嶋さんの女って知って、結構ショック受けたけど」
「何で声かけてくれなかったの」
「かけられっかよ」
制服着て、文庫本読んでる女子高生に、
近くで働いてるスーツのおっさんが
話しかけたら、ナンパか変態って
思われるオチだろ、って。
自虐的に笑いながら、
そんなことを言う蓮哉。
「要するに…あれだ」
蓮哉は息を呑み、
1回しか言わねえぞと前置きして。
「本当はずっと、妃名子が好きだった」
「嘘…」
「嘘じゃない。本当」
あたしの手を握る力が、
少し強くなる。
そしてあたしを真っ直ぐ見つめると。
「すっげえ傷付けて、今更って思うかもしれねーけど」
ねぇ、蓮哉。
「俺と付き合ってほしい」
あたし今、すっごく嬉しい。
幸せだよ。
「お願いします」
蓮哉と幸せになりたい。
ずっと隣にいたい。
幸せになりたい。
幸せにしたい。
「俺と付き合うってことは、離れらねーってことだけど?」
「本望です」
「ならいいけど」
2人で笑い合う、
この時間が来ることはもう
ないと思っていた。
「蓮哉、大好きだよ」
「いいから、そういうの」
「何で。言える時に言わないと」
「あーあー、うるせえ」
だけどこうして、
2人一緒にいられる今。
もう手放さないように、
幸せを大事にするしかない。
喧嘩しても、仲直りするように
努力したい。
悲しいことがあったら、
一緒に分かち合いたい。
蓮哉がいることが、
あたしがいること。
そんな風になっていきたい。
「学校行ったら、あいつに礼言っといて」
「朝陽のこと?」
「おかげで間に合ったってな」
「分かった。言っとく」
ふと朝陽のことを思い出す。
きっと朝陽だって、
苦しかっただろうな。
「寝るぞ」
「うん、おやすみ」
首まですっぽり布団をかけてくれる
優しさが、心底嬉しい。
あたしは安心して眠りについた。
隣にいる人のことを想いながら、
夢を見るのは何だか悪くない。