めぐりあい(仮)
「朝陽、今少しいい?」
次の日のお昼休み、
あたしは自分の足で
朝陽のクラスへ向かった。
案の定、周りからの視線が
痛いほどある。
だけど、今のあたしには、
そんなこと全く気になんてならない。
「来るなよ、遠いのに」
朝陽のクラスは、
なぜかあたしのクラスから
1番遠い場所にある。
そういえば、用事があるなら
俺が行くから、とか
言ってたっけ。
「何か、朝陽に会いたくなって」
「へー、珍しい」
「気持ち悪いね、なんか」
廊下で窓を開けながら、
2人の空間に酔いしれる。
他の人なんて、関係ない。
「昼飯、ちゃんと食ったか?」
「当たり前だよ。赤ちゃんのために、ちゃんとたくさん食べました」
ならいいけど、と。
鼻をすすりながら笑う朝陽。
そんな彼を見て、
あたしは少し切なくなった。
「ありがとね、朝陽」
「何が」
「昨日、蓮哉の会社に乗り込んでくれたんだって?」
そう言うと、青ざめた顔をして。
絶対言うなって言ったのに。
悔しそうに、嘆いた。
「あー、まじ最悪」
「何でよ」
「俺まじかっこ悪いだろ、だせぇ」
そう言いながら朝陽は、
自分の髪をくしゃくしゃにし、
大きい溜息をついた。
「朝陽、かっこ悪くなんかないよ」
かっこ悪いわけがない。
朝陽はこんなあたしのために、
たくさんのことをしてくれた。
「朝陽のおかげで、あたし、蓮哉にもう1度伝えられたの」
「……そっか」
「赤ちゃんのパパ、なってくれるの」
そう言うと、朝陽は心なしか
嬉しさ半分、安心半分の顔を見せた。
「全部朝陽のおかげだと思ってる」
「は?ばーか。ちげーだろ」
「違うくない。朝陽が蓮哉に伝えてくれなかったら、気持ち伝えられてなかったもん」
本当にそうなんだよ、朝陽。
朝陽のおかげなの。
「別にそこまでのことしてねーけど」
そう言うと朝陽は思い切り笑って。
「よかったな、吉川」
おめでとう、と、
祝福してくれた。
「あたし、朝陽にたくさん感謝しないといけないな」
「感謝?」
「朝陽もパパになるとか言ってくれたし。カイロだってたくさんくれて。学校でいつも守ろうとしてくれててさ」
こうやって考えると、
朝陽のあたしに対する想いは、
形になって現してくれてたなって。
今になって分かる。
朝陽の優しさも、行動も、
全部全部あたしのためだってこと。
「いつも自分のことで精一杯で、朝陽のこと、適当にあしらってたなって」
蓮哉といろいろあってから、
今日までの間。
支えてくれてたのは鳴海と、
間違いなく朝陽だ。
「すごく遅くなった、ごめん」
あたしは自分勝手。
いつだって、自分のことばかり。
だけどこれからは。
周りをちゃんと見れるようになりたい。