めぐりあい(仮)




「あっれー!茂雄じゃん!」




突然後ろにいた健斗くんが、


大きな声で叫んだ。


茂雄?





「お前ら…」




担任は一瞬で嬉しそうな顔をし、


あたしたちの脇をすり抜けて、


3人の元に向かって行った。




「え、何。知り合いなのかな」




「さあ、でも茂雄って、森先生の名前だよね」





森 茂雄。


あたしたちの担任の名前。





「何だお前ら、来てたのか」




「相変わらずっすね、先生」





蓮哉は少し恥ずかしそうに、


そして嬉しそうに笑っている。


千秋さんも、滅多に見せない笑顔で、


まるで3人とも高校生のよう。






「知り合いなの?」





あたしたちも近寄り、


そう尋ねてみる。


3人が高校生だった頃、


蓮哉と千秋さんの担任だったらしく。






「お前ら、まだ3人でつるんでるのか」





「俺ら、今同じ会社で働いてるんすよ」





健斗くんがそう言うと、


驚いたのか、先生は目を見開く。


卒業生が来たからか、


先生も嬉しそうで。





「お前ら、どういう関係だ?」





先生が3人にそう聞き。





「俺の彼女」





蓮哉は照れくさそうに、


あたしを彼女と紹介した。


そして、意外にも。





「それで、この子が俺の彼女」





千秋さんがそう言うと、


あたしも含めて、


みんなが驚いた。


もちろん、鳴海も。






「俺は茂雄いるかなと思って来た」




「世間は狭いな」





先生は、わはははと笑って、


3人の肩を順番に叩く。





「先生、まだ独身っすか?」





蓮哉が唐突にそう聞く。


当たり前じゃん。


この先生のこと、


好きなんて人…。






「まだ内緒なんだけどな。先生、1月に結婚するんだ」





いたんだ。





「え、先生。あたしたち、聞いてないよね?」




「式直前まで、言うつもりはなかったからな」





なんて人。


せめて、クラスの子には、


言ってもよさそうなことを。






「丁度いい。お前らに、招待状をやる」





そんなことを言って、


先生は3人に可愛らしい


ハガキを手渡した。






「吉川も伊藤も、内緒でなら来てもいいぞ」





それは、来いと言う意味でしょうか。


先生の横顔に疑問を浮かべながら、


あたしは蓮哉の持っている招待状を


覗き込んだ。





「ちょっと、超綺麗じゃん、奥さん」





確かに、あたしも思った。


はっきり言って、先生はかっこよくないし、


30歳過ぎなのに、もっと老けて見えるし、


特別優しいわけでもない。


ただ少し面白いだけ。


なのに、こんな人に、


こんな若くて綺麗な人が


奥さんとして家族が出来るんだ。






「だろ?もう結婚してくれないと、死ぬって言うからさ」





きっと大げさに言っているであろう、


些細なことなのに、


先生からは愛情が感じられる。


結婚するって、


すごいことなんだな。






「ま、とりあえず1月だからな」




「了解っす」




「おめでとう、先生」




「茂雄、楽しみにしてるわ!」





忙しいから、と先生は、


笑って去って行った。


あたしと鳴海は顔を見合わせて、


仕方なく教室に行くことに。






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