めぐりあい(仮)
「そういえば」
教室に向かいながら、
ひっそり鳴海に尋ねてみる。
「千秋さんと、付き合ってるの?」
そう聞くと、
そうだったと思い出したように、
後ろを歩く千秋さんを見て。
「俺の彼女、ってどういうこと?」
今聞いちゃうんだ。
そう思いながら千秋さんを見ると。
「鳴海、俺の彼女でしょ?」
平然とそう答えた。
鳴海は何だか納得いかない様子で、
首を傾げている。
「卵、もらうね」
あたしは鳴海から卵を受け取ると、
気を効かせて蓮哉と健斗くんを連れ、
先に教室に向かった。
「千秋さんって、案外やり手だよね」
「上手いと思うよ、俺も」
隣を歩く健斗くんと、
そんな話をする。
蓮哉は千秋さんの行動が面白いのか、
少し声を出して笑っていて。
「ごめんね、雑用手伝ってもらっちゃって」
「茂雄は、昔もそうだったから大丈夫」
やっとの思いで教室に着くと、
呼びかけをしていた友だちに声をかける。
「先生に頼まれて、卵持ってきたよ」
「あー!ありがとう…」
「蓮哉、もらうよ卵」
蓮哉にも持ってもらってた卵を
受け取り、教室の中に入って、
調理している場所に置いた。
再び廊下に戻ると、
なぜか女子が群がっていて。
「ちょっと、妃名子!この人たち、誰!」
「やばい、かっこいいんだけど!」
そんなことを言いながら、
蓮哉と健斗くんを囲むみんなは、
嬉しそうな顔をしている。
そうなるだろうな、とは思った。
思ったけど。
すごく、予想外。
「ね、誰?紹介して!」
そう言う友だちに。
「左の人、あたしの彼氏なんだ」
と答えると。
「え!嘘!彼氏!ねー、みんな!彼氏だって!」
その子は、輪の中に戻り、
大きな声で叫んだ。
それを聞いたみんなは、
一斉にあたしを見て、
羨ましいと声を上げた。
「え、妃名子とどうやって知り合ったんですか!」
「名前、何て言うんですか!」
「連絡先、教えてください!」
詰め寄られる2人。
それを見て、
悪い気分ではないあたし。
「俺は無理だけど」
蓮哉はみんなに向かって。
「こいつ、ここ置いてくから、連絡先でも何でも聞いて」
蓮哉は輪を抜けると、
あたしの腕を掴んで颯爽と
歩いて行く。
あたしは困っている健斗くんを見て、
可笑しくて笑ってしまった。
だって、すごい困ってるから。
「女って怖い」
「そう?あたしも女なんだけど」
「お前は、別に…」
「え?何?」
そう聞き返すと、
蓮哉は急に立ち止まり、
あたしを見て。
「何もねーよ、黙ってろ」
なぜか少し恥ずかしそうにそう言って、
また歩き出した。
学校内を一緒に歩くのは、
そういえば2回目だなって。
そんなことを考えながら、
言われた通り黙って、
後ろを着いて行くことにした。