めぐりあい(仮)

ありがとう






「お待たせ」




寒さが本格的になってきた。


休日。


あたしの家の前には、


見慣れた車が。




「飯食って来た?」




「ううん、まだだよ」




車に乗り込むと、


当たり前のように


シートベルトを閉める。


ふと顔を上げると、


すぐそこに蓮哉の顔があって。


軽く触れるように、


キスをされた。





「行くぞ」




「うん」





付き合ってからあたしたちは、


ほぼ毎日会っている。


会っていないと、


寂しくて死にそうなのは


あたしの方で。





「今日、どこ行くの?」




「服見に行くつもり」




「え、あたしの?」




「子どもんだよ」





お前のなんて、後回し。


そう言いながら、


意地悪く笑う蓮哉。






「これ、超可愛い!」




「いや、無理無理」





最近の日課。


ベビー用品が揃っているお店で、


2人並んで可愛いものを選ぶ。


これがいいだとか、


あれがほしいだとか。






「えー、3人でお揃い可愛いじゃん」




「ばか。お前1人でやれ」





こんな憎まれ口も、


全然憎くない。


むしろ、愛しくてたまらない。


傍にいられることが、


こんなに嬉しくて仕方がない。





「お前、今日検診だろ」




「うん、14時から」




「その前に何か食うか」





そう言いながら、


行きつけのお店でお昼を食べる。


蓮哉の大好きなパスタを、


一口もらって。


あたしの大好きなハンバーグを、


一口あげる。


当たり前のことを、


当たり前のようにやって。


そんな毎日が、


幸せすぎて怖い。






「子どものこと、お母さんに言った?」




「…まだ」





あたしの今の悩み。


赤ちゃんのことを、


お母さんに言いだせないってこと。





「だから、俺挨拶に行くって」




「ううん、まだいい」





言えない。


どうしても、言えない。


だってお母さん、


もし子どもが悠太郎の子どもだって


知ったとしたら。


きっとおろしなさいって


言うと思うから。


そんなこと、絶対にしたくない。






「いつまでも黙っていられるわけねーだろ」




「そうだけど…」





本当は認めてもらいたい。


祝福だってしてほしい。


だけど、絶対無理。






「検診、行くぞ」





食べ終わると、


何も言わずに病院に向かった。


車の中で、蓮哉はあたしの


手を、静かに握ってくれていた。






「こんにちは」




受付に顔を出すと、


看護師さんは後ろにいる


蓮哉を見て。





「今日は2人で来られたんですね」





そう言った。


あたしは笑顔で頷き、


イスに座って順番を待つことに。






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