めぐりあい(仮)
「お願いします」
「こんにちは」
2人で診察室に入ると。
先生は少し微笑んで。
「パパも来たの?」
そうあたしに聞いて来た。
「あ…えっと、」
「父親です。初めまして」
正直に言いそうになるあたしを制し、
蓮哉は自分を父親だと名乗った。
あたしは、そんなことなのに、
嬉しくてたまらない。
「じゃあベッドに横になって」
相変わらずの指示にも慣れ、
ベッドに横になり、お腹を出す。
モニターに映る超音波映像と、
すごく変な、赤ちゃんの心臓の音。
「うん、健康ですね」
「先生、この音、何ですか?」
「赤ちゃんの心臓の音ですよ」
初めて聞く音に、
感動しているのか、
蓮哉はモニターを眺めて
なかなか離れない。
「パパって実感が沸くでしょ」
そう尋ねる先生に、
若干涙目になりながら、
蓮哉は思い切り頷いた。
「夫婦で検診に来ると、もっと先のことが楽しみになって、いいことだと思うわよ」
先生にそう言われ、
あたしと蓮哉は顔を見合わせた。
先生は、あたしたちを、
夫婦と呼んでくれた。
いつか、あたしたちは、
本当に夫婦になれるんだろうか。
この子どもが生まれて、
3人で幸せになれるんだろうか。
「また次の検診日に会いましょうね」
「ありがとうございました」
母子手帳をもらい、
2人揃って病院を出る。
外に出た瞬間、
蓮哉は写真を眺めて
動かなくなった。
「蓮哉、早く帰ろうよ」
「待てって、もうちょい」
「帰ってから見ればいいじゃん」
嬉しいって思ってくれてるんだな。
そう思うと、何だかあたしも
嬉しくなってくる。
赤ちゃんの存在って、
大きいんだね。
「妃名さ、」
「うん?」
「高校卒業したらどうすんの?」
「あー、」
最近学校内では、
進路のことばかり。
あたしもそろそろ考えないと、
と思ってはいるけど。
実際何をしたらいいかは、
まだ分かっていない。
「まだ未定なんだけど」
だけど、未定なままで、
いいわけはなく。
興味あるものを職業にすれば?
と、先生に言われ。