めぐりあい(仮)
「ここ来たことある?」
「ないけど…」
「俺も。来てみたかった所」
蓮哉はメニューを見て、
即から揚げ定食を頼んだ。
大盛りで。
そう言うと、注文を
聞きに来てくれたおばちゃんが、
可愛らしい笑顔で、
「あいよ」と答えてくれた。
間もなくして、
おばちゃんがすぐに
定食を運んで来てくれた。
「美味い」
そう言って、
頬をいっぱいにする蓮哉を見て、
あたしの顔に久しぶりに
笑顔が浮かんだ。
「何?」
そんなあたしに、
蓮哉はから揚げを1つ
つまんで差し出す。
「食え」
「いい」
「いいから、食え」
どうしても食べたくなくて、
断り続けると、
蓮哉は少しかじって
小さくして、再びあたしに
差し出した。
「お腹いっぱいだから、食べたくない」
「嘘付くな、ばか」
「え…」
「朝飯、食ってねーんだろ?」
そう言われて、ドキッとした。
あたしは最近、ご飯が食べられない。
食べようとしても、箸が進まない。
朝ごはんも食べてない。
お昼は、お母さんが用意してくれた、
3つのおにぎりの1つだけ。
夜だって、お茶碗にご飯少しと、
お味噌汁だけ。
赤ちゃんがいなくなってから、
あたしの胃は小さくなるばかり。
「何で食わない」
「何で…ってことはないけど」
「じゃあ食えよ」
「…食べたくないの」
そう言うと、蓮哉は。
いきなり立ち上がって、
あたしの隣に座り。
さっき食べさせようとしたから揚げを、
箸でつまむと。
「食べさせてやるから」
「い、いいって…」
「お前、分かってんのか?」
「え…?」
蓮哉は恥ずかしそうに、
少し顔を赤らめて。
「俺がこんなことしてやってんのに、断るとか、俺を侮辱してるのと同じだからな」
確かに。
蓮哉がこんなことをしてるなんて、
きっと鳴海や千秋さんが見たら、
笑うようなことかもしれない。
「だから食え」
「…分かった」
差し出されたから揚げを、
一口、口の中に入れる。
そのから揚げが、
すごくすごく美味しくて。
思わず美味しいと、
口から出てしまうほど。
「まだ食えるだろ?」
「うん…食べる」
そう答えると、
蓮哉は元いた場所に戻り、
定食をあたしに差し出した。
「妃名が飯食わねーとか、似合わんだろ」
「失礼な。そんなことないよ」
なんて答えると。
「食ってくれよ。頼むから」
まじめな顔で、
蓮哉が心配してくれてるから。
申し訳ない。
なんか素直にそう感じた。