めぐりあい(仮)
「冬休み、旅行行くか」
「旅行?」
「千秋と鳴海ちゃんと4人で。温泉って、夏言ってたろ」
「言ってたね。行きたい」
決まりだな。
そう言って笑う蓮哉を見て、
何だか抱きしめたくなった。
「出るか、そろそろ」
お会計を済ませて、
車に乗り込むと。
「かけとけ」
そう言って、
見たことないひざかけを
あたしに渡してくれた。
「どうしたの、これ」
そう尋ねると。
「その辺にあったから、拾ってきた」
なんて言われた。
拾ってきた、なんて。
出して来た袋、
ちゃんとしたお店のじゃない。
「ありがと」
「拾ったんだぞ。捨てた奴に感謝しろ」
なんて言いながら、
サングラスをかけて、
車を走らせた。
「何で海行くの?」
「まあ、何となくだな」
「何となく?」
「ま、着いてからのお楽しみだ」
そんなことを言いながら、
窓を開け、肘をかけて、
鼻歌を歌う蓮哉。
車内に響く音楽は、
なぜかあたしの好きなアーティスト。
「何でこれ流してんの?」
「お前好きだろ、これ」
さらり、と言う蓮哉に、
胸を打たれたのは、
言うまでもない。
「もうすぐ着くぞ」
「見たことある、この景色」
夏に見たよりも、
少し寂しい感じを残した風景。
駐車場には、
車が1台もない。
そりゃそうだよね。
平日で、冬だもん。
「わー、気持ちい」
「誰もいねーな、さすがに」
蓮哉は静かにあたしの手を引いて、
海の方へ近付いて行く。
波の音が聞こえて、少し
癒されてる気がした。
「懐かしいな」
「夏に来たよね、ここ」
「白いビキニ着てたよな、確か」
「蓮哉、綺麗なお姉さんに、鼻の下伸ばしてたよね」
砂浜に座って、遠くを見つめる。
数か月前の話なのに、
何年も前のことのように、
思い出して話す。
あの頃はまだ、
蓮哉とこんな関係じゃ
なかったなって。
そんなことを思いながら。
「覚えてねーだろうな」
「何が?」
「更衣室から出て来た時、妃名と俺が言ったこと」
更衣室から、出て来た時。
頭を回転させるけれど、
微かにしか思い出せない。
確か、更衣室から出て、
鳴海とすぐ2人を見つけて。
それで。
「セクシーじゃなくてごめんなさいねって」
1つ1つ、
思い出していく。
「脱がしていいなら、脱がすけど…って言ったんだっけ?」
「お、覚えてたのか」
少し驚きながら、
蓮哉は意地悪く笑った。