めぐりあい(仮)
「あの時、まじで脱がせてやろーかと思った」
「何言ってんの」
「こいつ、こんな綺麗だったっけ、って思った」
蓮哉のその言葉を聞いて、
あたしは1人恥ずかしくて
顔を赤らめた。
蓮哉があたしを、
綺麗だなんて、
思ってたなんて。
恥ずかしくて、
仕方ない。
「俺さ」
「うん?」
「あの日のこと、後悔してんだ」
「あの日の、こと…?」
蓮哉を見つめるあたしを、
わざと見ないかのように、
蓮哉はずっと遠くを見ている。
「前にも言ったと思うけど。俺、木嶋さんよりも前から、妃名のこと知ってて」
「うん、聞いた」
「絶対話すことも関わることもねーって思ってたから、初めて階段で会った時も、4人で飯行ったときも、正直嬉しくて仕方なかったわけ」
知らなかった。
蓮哉の本音。
言葉の1つ1つが、
あたしの心臓を刺激する。
「海行くか、って決めた日」
日が真上からゆっくり沈んでいく。
まだお昼過ぎで、
風もそんなに冷たくはない。
「妃名から電話来たんだよ」
覚えてっかな。
不安そうにそう言う蓮哉は、
少し泣きそうで。
「俺、その時、海誘ってさ。断られたら、お前のこと諦めるつもりだったんだわ」
「そう…だったんだ」
「断られると思ったら、お前行くって言うし」
ま、嬉しかったんだけど。
少し照れるように笑う蓮哉が、
すごく愛しくて。
「だから、ここに来た日、嬉しくて自分の気持ち押し殺すのに必死だった」
「知らなかった」
「だろーな」
そう言って、蓮哉は立ち上がると、
背伸びをしながら話を続ける。
「ここ出た後、木嶋さんの家、行ったろ」
「あー、うん」
忘れもしない。
悠太郎の家で、
バーベキューしたこと。
蓮哉があたしを、
体を張って守ってくれたこと。
「木嶋さんから連絡入った時、本当は奥さんいるって知ってたんだ」
「え…」
ごめんな。
蓮哉はそう言って、
少し歩き始めた。
待ってよ。
そう小さく言って、
あたしも後を追いかけることに。
「恵莉香が呼べって言うから、来ないかって言われて。千秋といるから、行きますって答えた」
「そうだったんだ…」
蓮哉の背中がすごく寂しそうで。
鼻の奥がツーンと痛んだ。
何を悩んでいるの。
ねえ、蓮哉。
何を後悔してるの。
「あの日、俺が黙って連れてったせいで、妃名のこと傷付けたんだ」
「蓮哉、違うよ…」
「違わねーよ。あの時、奥さんがいることを妃名に言ってれば、行かないって言っただろうし。こんなことにはならずに済んだんだろうな、って。ずっと思ってた」
砂浜に蓮哉の足跡が出来て。
あたしがそれを踏む前に、
波が消してしまう。
追いつけない。
そう思った。
「でもあの時、お前が俺といること、木嶋さんに見せてやりたくて」
少し立ち止まって、
蓮哉は振り返ってあたしを見た。
「妃名は俺といたんだって、優越感に浸りたかった」
「蓮哉…」
「まあ、あのおっさんが、あんなに妬くのは想定外だったけどな」
そう言いながら、
あたしと離れた距離を、
自ら歩み寄って来て。