めぐりあい(仮)






「もう離れてやらないんだからね」




言ってやった。


勝った気分で、面喰ってる


蓮哉を置いて。


去ろうとしたのに。




「ふざけんな」





蓮哉に腕を掴まれて。


引き寄せられると。





「勝ち逃げしてんじゃねーよ」





離してほしくても、


もう離してやらねーからな。


そう言って、蓮哉は、


あたしがしたキスとは違う、


大人なキスを、


あたしにくれた。






「んっ…」





息をするのがやっとで、


なのに苦しいわけじゃない。





「帰るか」





蓮哉はあたしの髪を少し撫で、


また静かに手を握ってくれた。


少し前を歩くこの人が、


全身で愛しくてたまらない。






「嘘だろ」





少し日が陰り始め、


海風が寒く感じた時。


駐車場に蓮哉の声が響いた。





「無理そう?」




「あー、めんどくせえ。動かねえ」






どうやら室内の電気がついていたらしく、


バッテリーがあがって、


車が動かないらしい。






「え、無理?」





レッカー車を呼ぼうと、


電話をする蓮哉は、


少し苛立っているようで。





「じゃあ、また連絡してください」





小さな舌打ちが聞こえる。





「何だって?」




「今立て込んでてすぐに来れないって」





どうすっかな、なんて、


頭を悩ませている。


どうするのがいいのか、


あたしにも分からなくて、


ただ蓮哉を見つめるしかない。





「泊まってくか」




「え…仕事は?大丈夫?」




「俺しばらく休みだから」





そんなこんなで、


近くの宿に1泊することに。


海の近くだから、


選ぶほど宿泊場所があった。





「ここがいい」





調べた所によると、


夏に泊まりたいホテルの


ランキング1位の所。


行ってみたかった場所でもある。






「空いてます?」




「ございますよ。お2人様でよろしいですか?」




「お願いします」





部屋の鍵をもらい、


チェックインすることに。


荷物も何もないあたしたちは。






「夜は部屋についている浴衣でいいよね」




「別にいいけど」




「あ…下着、ないよね」




「買いに行くか」





あたしたち、


下着ばっか買ってるね。


なんて話しながら、


ホテルの近くのコンビニに向かった。





「何か買うか?」




「お菓子食べたい」




「好きなの入れろ」





太っ腹な蓮哉の言葉に甘えて、


かごいっぱいにお菓子を入れると。





「でぶ」





なんて言いながら、


意地悪な笑みを浮かべた。








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