めぐりあい(仮)
「あれ?」
「何?」
「浴衣…何で?」
「風呂入ってから戻るって。言ったろ」
そんなこと言ったっけ。
ごめんね、なんて言いながら、
急いでドアを開けた。
「服、洗うから、持ってきて?」
あたしは部屋に入ってすぐ、
脱衣所に自分の服を持って行った。
コンビニで買った洗剤を付け、
手でごしごしと擦る。
「ねー、蓮?早く持ってきて」
いつもは洗濯機で洗うから、
なんか手で洗うって変な感じ。
「れーんー?ねーって…ば…」
まだ?と振り向いてみると。
すぐそこに蓮哉がいた。
「蓮哉、着替え…」
「後でいい」
「何で。今ついでに…」
「妃名」
そう名を口にした瞬間。
蓮哉はあたしにキスをした。
「ん…、蓮…っ、」
お風呂上がりのいい匂いがする。
浴衣がはだけて、蓮哉の肌が
少し露わになる。
「ね…蓮哉、待って」
「無理」
「服…洗うか……、んっ」
何を言っても、無駄で。
水が流れっぱなしなのに。
蓮哉はキスを止めない。
「どしたの…蓮、」
「抱きたい」
突然蓮哉の口から出た言葉は。
初めて聞いた言葉だった。
「蓮…」
「ごめん、妃名。抱きたい」
そう言って、蓮哉はあたしを見つめた。
蓮哉と付き合った時には、
あたしのお腹に赤ちゃんがいて。
何かあるといけないから、と。
蓮哉はあたしに指一本触れなかった。
それを少し寂しいとは思っていたけど。
「いいよ」
蓮哉があたしを求めている。
それ以上に幸せなことはない。
「ベッド…連れてって」
本当はずっと、
抱きたくないんじゃないかって
思ったりもしていた。
悠太郎のことを、
気にしてるんじゃないかって。
あたしに触れる度、
悠太郎のことが、
頭に過ぎるんじゃないかって。
「妃名…」
蓮哉は、水を止めたあたしを、
深いキスをしながらベッドへ
導いた。
「蓮…」
ベッドに横になったあたしの上に、
蓮哉が来て。
静かに、ゆっくり、
髪を撫でてくれる。
浴衣とシーツが擦れる音が、
やけに聞こえる気がした。
「綺麗だ」
部屋の電気を真っ暗にして。
カーテンを閉めることを忘れ、
差し込む月の灯りがあたしを照らす。
「好きよ、蓮…」
「分かってる」
不思議と、なぜか、
涙がこぼれた。
「怖いか?」
怖いわけない。
この涙は、そういう涙じゃない。
「嬉しいの…」
そう。
怖いわけでも、
悲しいわけでもないの。
ただ嬉しいの。
今まで、悠太郎に抱かれる度に、
悲しくて、虚しくて、涙を流した。
愛してる。
そう言われる度に、切なかった。
だけど、今は違う。
蓮哉が欲しくて、
蓮哉が愛しくて、
たまらない涙。
蓮哉には分かるかな。