めぐりあい(仮)
「妃名」
蓮哉があたしの名を呼ぶ。
キスをしていた唇が、
あたしの首筋を刺激する。
「やっ…、」
声が漏れても、
構うことなく、
触れ続ける蓮哉の指が、
心地よくて仕方ない。
「何してんだ、お前」
部屋に響く自分の声が、
あまりにも恥ずかしくて、
自分の手で口を押える。
それを見た蓮哉は、
少し笑いながらあたしを見る。
「何…もっ、…ん、」
「声押さえてんのか?」
手を外せば漏れる声を、
押さえるために首を動かす。
縦に振って、肯定すると。
「は、ばかだろお前」
なんて言って。
「もっと出せよ。聞かせろ、お前の声」
そう言いながら、
押さえていたあたしの手を、
無理矢理剥がして、
自分の片手であたしの頭の方に
押さえ付けた。
「ふっ……やぁっ、」
「可愛い」
意地悪な笑みでさえも、
あたしの何かを刺激する。
触れられる部分が熱い。
「蓮哉…っ、」
「回せ、手」
押さえ付けてた手を、
自分の背中に回させると。
いい子、だなんて言って、
あたしを甘やかした。
蓮哉はいつでも、
突き放すようで、
本当はあたしを誰より
甘やかしている。
そんなこと、
今になってやっと分かった。
まだ蓮哉の全てが分かってない。
もっと知りたい。
もっと愛したい。
だってこの人は、
あたしの愛しい人なんだから。
「ん」
「ありがとう」
さっきコンビニで買った飲み物を、
あたしに手渡してくれる。
「辛くない?」
「うん、大丈夫だよ」
ベッドに横になりながら、
喉を潤す。
隣に座っている蓮哉を、
真っ直ぐ見れないでいた。
「何だ、お前。意識してんのか」
「そんなんじゃ…」
付き合ってるとはいえ、
初めて抱かれたわけだし。
蓮哉を知ってるとはいえ、
抱く時の息遣いとか、仕草とか、
初めて知ったわけだし。
何より、声、出しすぎちゃった
気がして。
「お前、そういうの反則だからな」
「え…?…んっ、」
蓮哉はまた急に近付いて来て、
あたしに深いキスをした。
「蓮…っ、」
「おー悪い、今日はこれくらいにしといてやるよ」
蓮哉はあたしの髪をくしゃっと撫で、
飲み物を冷蔵庫に戻しに行った。
「ばか…」
恥ずかしすぎて、
布団を頭から被る。
蓮哉は余裕すぎて、
何だか悔しい。
いつか蓮哉がやられた、って
思うくらい、
あたしも余裕がある
女になりたいな。
「洗濯物」
「あ、そうだった!」
忘れてた、とベッドから飛び出ると。
「下に洗濯機あったから」
「…へ、そうなの?」
なんだ、初めから知ってたなら、
教えてくれたらよかったのに。
なんて思ってると。
「何、お前」
「え?」
「また誘ってんの?」
そう言われて自分の状態に気付く。
まだ、あたし、服着てなかった。
「下行ってんぞ」
蓮哉は、笑いながら、
洗濯物を持って部屋を出て行った。
「あたしのばか…」
余裕持ちたい、なんて。
さっき思ったばかりなのに。
ただただ悔しさしか、
残らなかった。