めぐりあい(仮)
「ただ今クリーニング代を…」
そういう店長に対して。
「そんな濡れてないから本当に大丈夫です」
落ち着いた言葉を返してくれる。
傍らで見ている私は、
成す術なく佇んでいるだけ。
「ですが…」
「その子の給料にでもしてあげてください」
本当に気にしないで、と。
念を押すように言った。
店長はもう1度深々と頭を下げて、
カウンターの奥に戻っていった。
それから時間が経って、
そのお客さんが帰る時に
せめてものお詫びとのことで
食事代を無料にしていた。
「店長…ごめんなさい」
バイト終わり、
休憩と被っていた店長に
謝罪する。
「妃名らしくないミスだな」
「すみません…」
「ま、いいお客さんでよかったな」
店長は、20歳半ばで、
すごく意地悪な人。
でもすごく優しくて頼れる人。
「疲れてんだろうから、帰ってすぐ寝ろな」
「はーい」
お疲れ様でーす、と店を後にする。
いつもこんな感じでバイトを終える。
学校帰りに寄って、
働いて、10時くらいに終わる。
そんなこんなで1週間が経ち。
「店長お腹空いた~」
「こんな時間から食うと太るぞ」
「またそんなこと言う…」
休憩室の奥の更衣室で着替えながら、
休憩室でくつろいでいる店長に
ぶつぶつ文句を言う。
このお店は、別にバイト終わりや
休憩中に何を食べてもいいし、
作ってもらってもいい。
だけどいつも終わる時間が遅い
私は、何も食べずに
帰るんだけど。
「もういいです。帰りますよーだ」
「妃名」
休憩室を出ようとすると。
店長が私を呼んで。
振り向くと、ほらよ、なんて
言いながら何かを投げてきた。