めぐりあい(仮)






でもそうなるよね。


千秋さんはイケメンだし、


蓮哉もかっこいいと思う。


そんな2人が2人だけでいたら、


誘いたくなっちゃうんだろうな。





「あ、どっか行った」





千秋さんは分かんないけど。


蓮哉はもっと大人で、


素敵な女性がいいんだろうな。


スタイルもよくて、気が利いて、


優しくて可愛くて静かで。


あたしなんかじゃなくて、


もっと他に、いるんだろうな。


そんなことを考えながら、


少し寂しくなったりして。


まるで失恋した人のような。


そんな気分に陥った。


何それ、まるであたし。


蓮哉に恋してるみたい。





「どうしたの、お姉さん」





そんなことを考えてると、


どこからか泳いできた人に


声をかけられた。


クルーザーに乗った、


チャラそうな男の人が2人。





「流れちゃったの?」




「助けてあげよっか?」





その内の1人が海に降り、


あたしに近付いて来る。






「いいです。人待ってるんで」




「海の中で待ち合わせ?」





可愛い冗談だね。


なんて言いながら、


男の人はあたしの腰に触れた。





「やめてください」




「本当可愛いね。俺らと一緒に浜まで戻ろうよ」





ね?と言いながら、


あたしの浮き輪を取り上げられた。


やばい、と思いながら必死に


足をバタつかせる。


怖い、溺れる。






「ほら、1人じゃ泳げないでしょ」





後ろから男の人に抱えられ、


何とか浮くけど。


すっごく気持ち悪い。


海の中だけど、


知らない人に触れられてることが。


ものすごく、気持ちが悪い。






「浮き輪…」





「あーあ、流れてっちゃった」





遠くにある浮き輪が、


寂しそうにどこかへ


流れて行く。


どうしよう。


あたし、どうしたら。


そう思っている時。





「はいはい、すいませんね」





そう言ってあたしを引っ張ったのは、


息を切らした蓮哉だった。





「何だお前」





「お前らこそ誰だよ」





蓮哉はあたしの背後に回り、


あたしのお腹に片方の手を回し、


もう片方の手でバランスを取っている。






「お、俺らは…」





「人の女に手ぇ出してんじゃねぇよ」





蓮哉の顔は見えない。


ここが海でよかったと思った。


だって、どれだけ涙を流しても、


言い訳できるから。






「ここで大声あげて、監視員に気付いてもらうか?」





蓮哉がそう言うと、


男の人たちは悔しそうに


クルーザーに乗って、


どこかへ去って行った。





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