めぐりあい(仮)
 





つい、聞きたくなった。





「恵莉香さん」





聞くつもりじゃなかった。


言うつもりもなかった。





「旦那さんのこと、愛してますか?」





どうして聞いたかなんて。


あたしにも分からない。


だけど、もう。


聞くしかなかった。


でも分かっていた。






「そうね」





きっと恵莉香さんの口から


出る言葉は。





「愛してるし、信じてるわ」





深い言葉だってこと。


分かってたんだ。






「改めて言うと照れるけど」





恵莉香さんはタオルを手に取ると、


テラスに戻って悠太郎に手渡す。


悠太郎はごめんごめん、と


それを手に取り、口元を拭いた。





「あたしそろそろ帰らないと」





鳴海はそう言って、


あたしを見た。





「鳴海、送ってくよ」




「ありがとう」




千秋さんは悠太郎に声をかけ、


お邪魔しましたと言った。


あたしも帰りたいのに、


蓮哉は何も言ってくれない。





「じゃあ、下まで見送るわ」




「美緒もっ」





恵莉香さんと美緒ちゃんは、


2人の後を追って外に行った。


残されたあたしたち3人は。


気まずさをまとって、


立ち尽くしていて。





「妃名子、今日蓮といたの?」




「あ、うん。海…行ってて」





突然話し始めた悠太郎は。


なぜか怒っているようで。


目が合った瞬間、


怖くて逸らしてしまった。





「俺、聞いてないよ?」




「ごめんね。でも前から約束してたから…」




「蓮のこと好きなの?」




「悠太郎…」





悠太郎はいつもはこんなんじゃない。


高校の男友だちの話でも、


好きな芸能人の話でも、


いつも笑ってくれるのに。


いつもの悠太郎なら、


俺も行きたかったって。


そう言うのに。





「答えられないの?」




「悠太郎、聞い…」




「答えろよ!」





悠太郎が、大きい声で


怒鳴るもんだから。


だからびっくりしちゃって、


手に持っていた紙コップを


地面に落としてしまった。


怖い。


初めてそう思った。






「木嶋さん、怖がってますから」




あたしと悠太郎の間に入ったのは、


低い声で怒ってる蓮哉で。





「蓮はどいててくれ」




「嫌です」





悠太郎。


ねえ、悠太郎。


もうだめだよ。





「妃名子、答えろ。蓮が好きなのか…」




「木嶋さん、いい加減にしてください」




「妃名子っ、」




「木嶋さん!」





蓮哉はあたしを、


体を張って守っている。


あたしは怖くて怖くて、


一歩も動けない。





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