めぐりあい(仮)
「木嶋さん、間違えてます」
蓮哉はあたしの方を1度見て、
優しく髪を撫でた。
そしてもう1度悠太郎を見て。
「妃名は、あなたの女ではありません」
「蓮、何言って…」
「木嶋さんが怒る権利、ないと思いますけど」
そう言われて悠太郎は、
肩を落とした。
「妃名子が怖がってるのすら、気付けないあなたは」
悠太郎を真っ直ぐ捕えた蓮哉は。
「妃名子を守ることなんて出来るはずがない」
堂々と、そう告げた。
そこに帰って来た、
恵莉香さんと美緒ちゃん。
「悠くん、何があったの?」
ただ事じゃないと察知したのか、
慌てて駆け寄る恵莉香さん。
そして。
「妃名お姉ちゃん、泣いてるの?」
足元にいる美緒ちゃんは、
一生懸命あたしの頬に
手を伸ばそうとしてくれる。
「美緒ちゃん…」
「何があったの?」
恵莉香さんの問いに。
「すいません。つい酔って、失礼な口を聞いてしまったみたいで」
蓮哉が笑いながら、
場を丸めるための嘘を付いた。
優しい優しい、
あたしのための嘘。
「美緒、お姉ちゃん連れてお部屋入ってて」
「はーいっ」
幼い美緒ちゃんに手を引かれ、
あたしはリビングに入り、
窓をぴしゃりと閉めた。
「お姉ちゃん、怖かったの?」
「そうだね。怖かった」
美緒ちゃんは隣に座ると、
あたしの頭をいいこいいこする。
小さい子のすることに、
不思議と癒される。
「美緒ちゃん」
終わりに出来る。
あたしには何も残らないけど。
「パパのこと、好き?」
悠太郎には、
たくさん守るものがある。
あたしはそれを、
奪おうとしていた。
「大好きだよ!」
「どれくらい好き?」
奪うってことは、
絶対許されない行為だから。
「こーんくらいっ」
こんなに小さな女の子が、
両手を広げて悠太郎を
好きだと言う。
あたしの体で表せは、
腕一本分くらいの長さ。
だけど美緒ちゃんからしたら、
おっきなおっきな愛情で。
そんな愛情を、
あたしが壊すことなんて。
刑罰が与えられるとしたら、
死刑に値するんじゃないかって。
「お姉ちゃんは、パパのこと好き?」
「え…?」
美緒ちゃんの質問に、
戸惑ってしまう。
なんて答えよう。
自分に問い直して。
「好きだった」
本気で返してしまった。
可笑しいくらい可愛い丸々とした
瞳であたしを見つめる美緒ちゃんは。
「もうパパのこと、嫌い?」
本気でそう尋ねるもんだから。
「美緒ちゃんに負けちゃった」
そう言ってあげると、
何だか嬉しそうな顔をして、
勝ったと喜んでいる。
こんな可愛い子に、
罪はないもんね。
あたしはテラスにいる恵莉香さんを
見つめた。