めぐりあい(仮)





今日初めて会ったけど、


本当にいい人で。


本気で恵莉香さんに


なりたいと思った。


悠太郎の隣にいるのが、


当たり前の存在の恵莉香さんが。


心底羨ましかった。


でも、その反対で、


絶対なれないと実感した。


恵莉香さんにはなれない。


こんな気持ちになって、


今までだったら負けたくないって。


負けるもんかって。


だけど、今回ばかりは、


負けを認めようと思う。


不倫は絶対しない。


そう思っていた女が、


軽い気持ちで悠太郎を


好きになってしまった。


そんなあたしへの、


自分への戒め。


こんな不倫の終わり方は、


なかなかないのかもしれない。


だけどあたしは、


ここで終わりにすることにする。


楽しかった。


幸せだった。


ここで、終わりに、しよう。





「妃名子さん、落ち着いた?」





心配そうに顔を覗く恵莉香さん。


あたしは笑って、大丈夫ですと


言葉を返した。





「本当男の人ってすぐ喧嘩するから」





いつまでも子どもなのね。


恵莉香さんの穏やかな顔を見てたら、


何だかあたしも穏やかな気分になった。





「妃名、帰ろ」




「蓮哉」




あたしの鞄を持ち、


手を差し出してくれる蓮哉。


ねえ、蓮哉にいっぱい


言いたいことがあるよ。





「お邪魔しました」




「遅くまですいませんでした」





玄関で頭を下げる蓮哉。


あたしたちを見て、


またねと笑う恵莉香さんと。


寂しそうにあたしを見つめる、


悠太郎がいて。





「失礼します」




蓮哉は悠太郎の前で


あたしの手を握り、


エレベーターに乗り込んだ。


繋がれた手が、


すっごく温かい。






「ねー、蓮哉」




「ん?」




恵莉香さんが呼んでくれた


代行会社を待つまで、


外で待機することに。





「あたし、悠太郎とばいばいすることにする」





蓮哉に1番に言いたかった。


だって、この人は。


いつだってあたしを、


体を張って守ってくれる。


自分のことよりも、


あたしを心配してくれる。


そんな人だから。





「恵莉香さんや美緒ちゃん見てて。勝てないなって、思っちゃった」




「そうか」





いいんじゃね、と。


そう言って笑ってくれた。





「蓮哉、ありがとね」




「何が?」




「さっき色々悠太郎に言ってくれて」




「あー…」





代行会社の車が来て、


乗り込み場所を伝える。


今日も送れないから、


俺ん家でいい?と聞く蓮哉に


大きく頷く。





「ありがとうございました」




代行会社の人が帰ると、


2回目の蓮哉の家に入った。


なぜか落ち着いてしまう、


蓮哉の家の中。






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