めぐりあい(仮)
「風呂、入るだろ?」
「入る」
「ってお前、下着また…」
「今日はあるんですー」
海に行くなら、
何があるか分かんないと、
下着類を余分に持って来たのだ。
用意しといてよかった。
車の中でそう思っていた。
今日もこの前みたいに、
交互にお風呂に入り。
「今日はこっちに寝るんだね」
「お前一緒にいてって泣くだろ」
「な、泣かないよ」
真っ暗な部屋の中。
蓮哉の腕枕に包まれて、
一息つく。
「あたしね」
聞いてほしい。
あたしの気持ち。
今日だけでいいから。
今日で終わらせるから。
「悠太郎が本気で好きだったの」
「うん」
「あんなに優しくて、愛してくれてね」
「うん」
「傍にいようとしてくれてね」
込み上げる思いは、
言葉と共に涙へと変わる。
そんなあたしを、
向き合って抱きしめてくれる蓮哉。
「いつでもあたしと一緒にいてくれた」
「うん」
「こんなに好きな人、もう出来ないって思った。一生一緒にいたいって、思ってた」
「うん」
「でも悠太郎には、恵莉香さんと美緒ちゃんといてほしい」
強くなる蓮哉の力が、
すっごく心地いい。
「悠太郎にはいなきゃいけない場所がある。それはあたしが壊していい物じゃない」
そう気付けたのは。
「そう思えたのは、蓮哉のおかげだと思ってる」
「は?俺?」
「そう。蓮哉のおかげ」
蓮哉と出会えて、
色々な時に助けてくれて。
たくさんの言葉をくれた。
「あたしの中で、結構蓮哉って大きいんだよ?」
知ってた?
そう言って顔を上げると。
お風呂上がりのいい匂いと共に、
蓮哉の顔がすぐそこにあった。
そしてあたしは。
その唇に触れたい。
そう思ってしまった。
「だ、だからね?」
「うん」
「感謝してます」
気持ちを伝えるように、
蓮哉の胸に顔を埋めて、
ぎゅーっと抱きしめる。
「妃名子」
「ん?」
少し眠そうな声で。
「俺はいつでもお前の傍にいるから」
「うん…」
「だから泣きたい時は泣けばいいし、怒る時は怒ればいい」
「蓮…、ありがと」
蓮哉に出逢う前まで、
悠太郎でいっぱいだった。
初めて会った時、
失礼な最低男だと思ったけど。
「おやすみ」
「おやすみ」
いつのまにか、
あたしの中では、
大きな、大切な存在に
なっていたのかもしれない。