めぐりあい(仮)
「悠太郎といても何も残んないし」
だけど、卑怯なあたしは。
こんな手しか使えない。
ごめん。ごめんね。
「だからもう、終わっ…」
「ごめん」
悠太郎はイスから立ち上がると、
窓の外を眺め続けるあたしを
自分の方に引いて、抱きしめた。
「悠太郎、やめ…」
「そんなこと言わせて、ごめん」
悠太郎は何度も何度も、
あたしに謝った。
「何で謝るの」
「俺のためにそんなこと言ってくれてるんでしょ?」
優しい悠太郎を、
これ以上愛せないことに、
今更後悔している。
ここで本当に終わりにして、
あたしは生きて行けるのか。
いや、大丈夫。
でも。
いや。
そんな葛藤が続く。
「でも、俺は妃名子と一緒にいたい」
「悠太郎…ごめんね」
悠太郎を忘れないように。
この感覚を、温もりを、
思い出に出来るように。
「嫌い?」
「ううん」
「もう無理?」
「悠太郎…」
「辛い?」
「…うん」
きっと悠太郎は、
悠太郎なりに考えてくれてる。
それが伝わって来るから。
「すぐに決められない」
ごめん。
そう謝る悠太郎に、
感極まる。
思いが伝わって、
思わず涙が溢れ出る。
「ごめん。考える時間が欲しい」
「うん。分かった」
情けない。
そう言う悠太郎は、
あたしを抱きしめて離さない。
「あたし、そろそろ行くね」
「…もう、帰る?」
引き止めて来る悠太郎に、
後ろ髪引かれそうになる。
悠太郎、ごめんね。
悲しい思いさせて、
本当にごめん。
「妃名子」
最後にするように頑張る。
そう言って、あたしの唇に、
自分の唇を優しく押し当てた。
妃名子。
そう呼ぶ優しい声を、
何度も求めそうになる。
悠太郎。
もう呼べないのかと思うと、
寂しいよ、本当に。
「じゃあ、行くね」
答えも聞かずに走り出した。
今、悠太郎は、
どんな顔をしてるんだろう。
悲しまないで。
落ち込まないで。
どうか、幸せになって。
あたしは大丈夫。
あなたは大丈夫?
「ごめんねっ…」
エレベーターのボタンが
押せずに、
しばらく開きっぱなしだった。
そこに悠太郎が追いかけて来ないかな、って。
そんなことを考えてしまっていた。
でも終わり。