めぐりあい(仮)






終わりに、するの。





「待って…、妃名子っ、」




足元ががくんと揺れ、


中に乗りこんで来る人。


息を切らして、


肩を上下させて。






「ごめん、妃名子」





「悠太郎…だめ…」





首を振るあたしを。


涙を流すあたしを。


まっすぐ見つめる悠太郎。






「無理だよ。離れるなんて考えられない」





泣かないで、と。


服の裾で涙を拭い、


空いている手で頬を包む。





「悠太郎は…幸せに、」





「俺の幸せが妃名子といることなんだけど」





「悠太郎…」






閉じた扉の小さな空間で、


息を整えた悠太郎は、


あたしにキスをして。






「聞き分けなくて、ごめん」





もう何も言えなくなって、


あたしは悠太郎に手を引かれるがまま


車に乗り込んだ。


悠太郎の家に着くと、


何も話すことなく求め合った。


この人の温もりを感じながら、


少しだけ後悔した。


別れるつもりで会いに行ったのに。


蓮哉に背中を押してもらったのに。


意志が弱いあたしは、


全部無駄にして。


愛してる、と囁かれる度にまた、


涙を流すのかなとか。


そんなことを考えた。


ねえ、悠太郎。


この時あたしが、


何が何でもあなたを振り解いていたら。


未来は変わっていたのかな。


あなたとあたしがこの先にあることを


知っていたなら。


あたしたちはどうしていたのかな。


ずっとずっと、そんなことを


考えています。





「妃名子、ごめん」





「…ううん、じゃあね」





「うん。おやすみ」





去って行く車を見送りながら、


少し肩を落とした。


何やってんだろうって。


あたしばかだなって。


そんなことを考えながら歩いていると、


突然ポケットの中が震えだして。


そこに出た名前を見て、


なぜだかわかんないけど、


涙が溢れた。






『あー、ばか女?何してる?』





「……」






飲んでいるのか、何なのか。


楽しそうな声が聞こえてくる。


後ろがにぎやかで、


微かに千秋さんの声と


聞き間違えでなければ


鳴海もいる気がする。







< 61 / 152 >

この作品をシェア

pagetop