めぐりあい(仮)







「何?今、散歩中なんだけど」





『お前が散歩とか似合ってねーから。笑わせんな』






蓮哉がそう言って笑うから、


あたしも少し笑った。


だけど笑える余裕なんてなくて。






「何、ちょっと。失礼すぎるんですけど」





だけど無理矢理そう言って笑ってみせた。


なのに、何でかな。






『何お前。泣いてんの?』






何で蓮哉は、気付いちゃうの?





「何言ってんの。泣いてるわけ…」




『あーはいはい。今どこ?』




「…家の近く」




『行くから。待ってろ』






絶対動くなよ。


そう言い残して蓮哉は電話を切った。


あたしは切れた携帯を見つめて、


ポロポロと画面に涙を落とした。


どんな顔して会えばいいの。


何でこんなあたしに優しくしてくれるの。






「どうもーっす」






10分もしないうちに、


タクシーが到着した。


中から適当にお礼を言って


出て来る蓮哉。


相変わらずスーツが似合ってて、


髪も明るくて、ダルそうで。






「妃名」




「うん」





家の近くの公園にいたあたしを、


迷うことなく見つけた蓮哉は、


あたしの名を呼び近付いて来る。






「飲んで来たの?」





「千秋と飲んでた。後から鳴海ちゃんも合流したから、妃名も呼んでやろうかと思って電話した」





どうりで声が聞こえるわけだ。


納得しながら相槌を打つと。






「お母さんは?家?」




「ううん。今日も仕事」




「そっか」






蓮哉は空気を変えるためか、


珍しく色んなことを話してくれる。


きっと気付いてるんだろうな。


あたしが泣いていたことも。


話そうとしていることも。






「で、何泣いてんだよ」




「……いや、何も」




「嘘付くの下手な、お前」





蓮哉はそう言ってあたしの手を引き。


少し歩くかと言って公園を出た。






「ごめんね、蓮哉」




「何が」




「今日悠太郎と会って来た」





蓮哉の背中に話しかける。


何も言わず、頷くだけの蓮哉。






「もう別れるって言ってきたの。でもね…」





無理だったって、言いたいのに。


言わなきゃいけないのに、


なぜか声が出せなくて。


変わりに出て来る涙が邪魔をして。






「あの…ね、蓮、」





「…妃名、もう分かったから」






先を歩いていた蓮哉は、


振り返るとあたしを包んでくれた。


あたしは胸の中で、


子どものようにわんわん泣いて。


それをあやすように、


蓮哉はポンポン背中を撫でてくれて。







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