めぐりあい(仮)
お昼にカフェに入って、
気が付けばもう夕方の4時過ぎ。
悠太郎が出て行ったのがお昼の
1時過ぎだったから、
3時間近くは経過している。
まだオムライスには、
手を付けていないまま。
だって悠太郎が。
戻ってくるって。
「いらっしゃいませ」
勢いよくカフェの扉が開き、
誰かが店内に入って来た。
息を切らしたその人は、
案内しようとする店員さんを
押し退けて、奥へと入って来た。
誰か急いでるのかなって。
そんな風に思いながら、
ぼんやり顔を上げると。
「妃名……いた…」
汗をかいて、息を切らした、
蓮哉がそこに立っていて。
「蓮…どうしたの?」
思ってもみない人がいて、
少し驚く。
こんな所で、誰と待ち合わせ
なのかな、とか考えた。
不思議とそんな余裕があった。
もう、自然と体が状況を。
悠太郎が帰って来ないということを
把握していたから。
「誰かと待ち合わせ?」
「迎えに来た」
「誰を?」
「お前。木嶋さん、しばらく戻って来られねーから」
座ろうとせずに、
ひざに手をつき、辛そうに
息を整えている蓮哉。
気を効かせて、店員さんは
お冷を運んでくれた。
すいません、と受け取ると、
素早く蓮哉に手渡す。
「蓮哉、お水」
何も言わず受け取ると、
蓮哉は水を飲み干して、
完全に息を整えた。
あちー、なんて言いながら、
首元に汗が伝っていたから、
あたしは立ち上がって
おしぼりで拭いてあげた。
「いいって、妃名」
「蓮哉…ありがとぉ」
蓮哉に触れた瞬間、
とてつもなく悲しくなって、
切なくなって、目から滴がこぼれた。
泣くつもりなんてなくて、
汗を拭ってあげたかっただけで、
他に何も考えてなかったのに。
「飯作れ。買い物行くぞ」
冷えたオムライスをそのままに。
結露で濡れた悠太郎のコップを
そのままに。
あたしの荷物を手に持ち、
レジに向かった蓮哉の後を追う。
会計を済ませようとする
蓮哉を制したけれど、
止めきれず、小銭だけ何とか
払うことが出来た。
「会社まで徒歩だけど我慢しろよ」
「今日は車で会社行かなかったの?」
「行ったけど、ここに来るのに走って来て、車のこと忘れてた」
蓮哉はそう言うと、
あたしの傘を差し相合傘に。
といっても、ほぼ自分は濡れてくれていて。
「蓮哉、濡れちゃうから」
「小降りだから気にすんなって」
優しさが嬉しくて。
いつでも蓮哉は、あたしのために
何かしてくれようとする。
今だって自分はずぶ濡れなのに、
あたしの荷物を内側にして、
あたしを傘ですっぽり覆ってくれている。
「帰ったらお風呂だね」
「お前その間、飯作ってろよ」
「はいはい。何作りましょうか」
「って、まだお前の腕、信じてはねーけどな」
蓮哉といると、笑っていられる。
自分が自分でいられる。
そんな気がしていた。