めぐりあい(仮)





「結構かかったね、会社まで」




「今頃雨、止みやがったしな」





車取って来る、と言い、


蓮哉は一旦会社の中に入って行った。


それと同時に携帯が震え、


悠太郎の名前を確認すると、


静かに携帯を耳に当てた。





「もしもし?」




『妃名子?ごめん、連絡遅くなった』




「うん、平気だよ。お仕事忙しかったの?」




『いや、恵莉香が熱出したから美緒を預かってって言われて』





言いにくそうな声で、


事情を話す悠太郎。


分かってる。


理解しなきゃいけないのよね。






「そっか、仕方ないよね」




『本当ごめん』




「ううん、あたしももう帰ってるし、気にしないで」




『また今度、動物園行こう』






優しい悠太郎は、


きっとひどく申し訳ないと


思ってる。


動物園に行くのだって、


あたしが行きたいと願っていて、


だけど叶えてあげられなかったことに、


少しばかり後悔してたりすると思う。


開運のために、動物園を選んだ、


自分勝手なあたしなのに、


そんなことをこれっぽっちも


知らない悠太郎は、少なくとも


今日1日はあたしに対してずっと、


ごめんって思うんだと思う。






「またね、悠太郎」






あたしは何か言っている


電話の向こうの悠太郎を、


気にすることなく電話を切った。


今日のことは忘れたい。


悠太郎も美緒ちゃんで


いっぱいでいてほしい。


そこに丁度よく蓮哉の車が停まり、


あたしは助手席に乗り込んだ。






「さっき悠太郎から連絡あった」




「今日何作る?」




「申し訳なさそうに話すんだよ?」




「仕方ねえからお前の得意料理でもいいけど」





噛み合わない会話。


何も聞こうとしてこない蓮哉。


あたしのために、


話題を逸らす蓮哉。






「何でだろうね」




「お前さっきからうるせーな」




「何で悠太郎、会社に戻っちゃったの?」





恵莉香さんが倒れたなら、


直接電話が来るはず。


わざわざ会社に行く必要なんて


ないんじゃないの?


しつこく聞くあたしに、


溜め息をつきながら。





「奥さんから会社に連絡入って。今日、旦那出勤って聞いたんですけどって」




「…出勤?」




「今、席外してるからかけ直すって言って、とりあえず木嶋さんに連絡した」





それだけ、と言い放つ蓮哉。




「そうなんだ…そっか」





事実を聞いてただ呆然とするあたし。


涙が出る予感がして、


ぐっとこらえる。


そうなんだ、そっか。


あたし、悠太郎にまた嘘、


付かせちゃったんだね。






「あたしの得意な料理でいいのね?」




「別にいいけど」




「分かった」





しばらく走ってスーパーに入った。


蓮哉の家の近くにもあるのに、


なぜか通りがかりのスーパーで。





「何しよっかなぁ」




崩したスーツのポケットに


手を突っ込み、横に並ぶ蓮哉。


あたしはひたすら笑って、


食材を見つめた。





「おい、妃名」




「早く帰らないと風邪引いちゃうね」





蓮哉が何を言おうとしているか、


大体予想はつく。


無理に笑うなとか、


泣けばいいとか、


優しい言葉をくれるんだ。





「あたし何作るか、決めた」





だけどまだ笑っていたい。


今日は朝から雨で、


お気に入りの服も着れなくて、


占いも12位で、


何1ついいことはない。


けれど、だからって、最悪な日だった、


なんて思いたくない。


今日1日は、蓮哉でいっぱいになる。


いっぱいにしたい。






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