めぐりあい(仮)
「風呂行って来いよ」
「うん。でもお皿洗ってから…」
「俺やっとくから」
なんて言って、
蓮哉はスポンジを手に取った。
お言葉に甘えて、
お風呂に入らせてもらうことに。
今まで気になんてしたことなくて、
むしろどんだけ素なのってくらい、
お風呂上がりでも気にしなかったのに。
「髪、ボサボサ…」
脱衣所で服を着ながら、
そんなことを思った。
何回か来てる中で、
髪を整えたことも、
気にしたこともなかったのに。
結局すぐ乾かして、
ボサボサだけは直すことにした。
何だか、少しだけだけど、
今日のあたしは、どこかが変だ。
「何か飲む?」
「ううん、いい、いらない」
冷蔵庫を覗き込む蓮哉に、
そう言い返してしまう。
心なしか、自分の返答が
冷たくてびっくり。
「あ、あたし、先に寝るね」
「は?」
「お…やすみ」
まだリビングでテレビを見ている
蓮哉に、勝手にそう言い放つ。
何なの、自分。
意味が分かんない。
分かんないんだけど、
すごくすごく恥ずかしい。
「妃名子」
勝手にベッドに横になり、
薄い布団を頭まで被るあたしに、
優しく話しかける蓮哉。
「怒ってんのか?」
あくまで寝たふりを続けるあたし。
きっとおかしいのには訳があって。
どれもこれも全部、蓮哉のせい。
さっきのこととか、さりげない
小さな優しさとか。
あとは、考えたくないけど、
悠太郎のこととか。
「どうした、妃名」
考え出したら止まらなくなった。
何で蓮哉はいつも優しいんだろうって。
あたしの存在は、どこに
あるべきなんだろうって。
蓮哉が本当にあたしを好きに
なってくれないかなって。
この間、もう少し頑張るって
そう思ったんだけど。
「妃名?」
悠太郎があたしのために、
あたしのせいで、嘘を付くこと。
それを知って、平気でいられない。
守るべきものがある。
そんな彼を好きになったのはあたし。
恵莉香さんから、取ろうとしているのは、
間違いなくあたしなんだよね。
「ねー、蓮」
「ん?」
薄い布団は相変わらず、
頭まで被ったまま。
蓮哉が今どこにいて、
どうしているのか全く分からない。
「人を好きになるって、難しいね」