めぐりあい(仮)





「ごめん、ごめんな」




謝る蓮哉を見て、


あたしは涙が込み上げた。


あたしは蓮哉に抱かれてもいいと


本気で思った。


このまま何もかも、


忘れたいって思った。


だけど蓮哉からしたら、


あたしが自分を利用してるように


思っちゃったんじゃないかって。


虚しくなったんじゃないかって。


何か色々考えて。


謝る方は蓮哉じゃなくて、


あたしの方だ。






「ごめ…、蓮哉…」





「10月にある秋祭り、行く?」





泣くなって、と優しく言いながら。


涙を拭ってくれる彼は、


少し困ったように微笑んで。





「毎年屋台で連れ出されんだけど、今年は手が空いてんだ」




「一緒に、行ってもいいの?」




「行ってもいいってか、誘ってんだけど?」




「うん。行きたい」





決定、と頭をくしゃくしゃさせて、


蓮哉は立ち上がった。


水飲んで来る、と部屋を出ていき、


1人になったあたし。


途端に恥ずかしさでいっぱいになり、


再び布団の中に潜り込んだ。


どうかしてたとはいえ、


キスしてって言うなんて。


自分で自分に引いた。


でも何でそれに応えてくれたんだろう、


と考え込む。


蓮哉なら簡単に流すと思ったのに。


だけど、何だか、嬉しかった。


それだけは実感していた。


目を瞑って、蓮哉が戻るのを待つ。


もう涙は出ない。


蓮哉が泣くなと言ったから。


あたしの中で何かが決まったから。


もう迷いはない。


悠太郎とは、さよならするんだ。


彼には彼の道を、進んでもらう。


それがあたしの望みだから。






「おら、起きろ」





「んっ…朝?」





ふと意識が戻り、


目が覚めた時にはもう朝だった。


蓮哉はあたしを起こすと、


ぶつぶつ文句を言って部屋を出て行った。






「蓮…、早いね、おはよ」





「おはよじゃねーよ。何回起こしたと思ってんだ」





なんて言いながら、


食器を棚から出してきて。


テーブルには、朝食が


並べられた。





「蓮哉、目玉焼き上手だね」




「1人暮らしなめんな」





とか言いながら、


何気に嬉しそうな蓮哉を見て、


不思議と嬉しくなる。


いただきます、と頬張ると。





「今日暇だろ?」





なんて言うもんだから。





「うん、まあね」




「部屋の掃除、して」




「は、やだよ。自分の部屋でしょ?」




「てめぇ、そういう時だけ優しくねーな」




「何よ、それ」






頬を膨らますあたし。


それを見て、蓮哉は。





「可愛くねーぞ、そんな顔しても」





と言ってきた。


ムカついたから、絶対掃除しない、と


言ってやると、案外あっさり


謝って来た。


こんなにすっきりした気分で、


朝を迎えたのは久々で。






「ばか蓮哉」





なんやかんや言いながら、


綺麗にしてあげようと思った。


誰かのために、何かすること。


それが蓮哉ならなおさら、


してあげたいと思った。


いつしか思った、形ある感謝を、


今しないでいつするの。


心の奥でそう思いながら、


口では刺々しい言葉を吐く。


この時のあたしには、


まだ甘酸っぱい感情に


気付きもしなかった。


こんな感情があるなんて、


もっと早く知りたかった、なんて。







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