めぐりあい(仮)






「もう遅れちゃうよ」





「分かったから、もう少し我慢しなさい」





鏡の前に座るあたし。


その後ろで髪を結うお母さん。





「髪飾り、白とピンクどっちがいい?」





「え、お母さんがいいと思う方でいいよ」





あたしのお母さんは、


自分で言うのもなんだけど、


結構綺麗な人だと思う。


お洒落だし、センスもいいし、


いつも買い物とか


付き合ってもらったりして。





「はい、出来た」




「ありがとー」




鏡で自分を見て、


これがあたしかと少し驚く。


お母さんが魔法をかけたのか、


髪が結われているせいか、


少し自分が大人びて見える。






「じゃあ行ってくるね」




「お母さんもそこまで用があるから」





下駄を履き、


手持ちの小さな鞄を持つ。


最近2人で並んで歩いたの、


いつぶりだったっけ。






「ね、妃名子」




「何?」




「好きな人でも出来た?」




「何よ、急に」






肩をすり寄せ、


今にも手を繋ぎそうな距離で


歩くお母さん。


何だか少し楽しそうで、


ずっと笑っている。


まるで、自分が恋をしているような、


そんな瞳で。






「最近楽しそうだから」





「べ、別にそんなことないよ?」





「ちょっと焦ってるじゃない」






くすくす笑ってあたしを見る。


あたしは恥ずかしくて、


視線を逸らす。


話題も逸らしてみたけど、


逸らしきれず。







「どんな人なの?」




「どんな人って…」






そこで浮かんだのは。


不思議と、蓮哉で。


悠太郎の顔が浮かんできたのは、


ずっとずっと後だった。





「また今度話すね」






どこまで一緒に歩くのか。


お母さんは一向に離れる気配はなくて。


どうしよう。


だってもうすぐ、


蓮哉と待ち合わせの場所。






「あ」





その時。


少し向こうに人影が見えて。


それが蓮哉だと気付くと、


思わず声を上げてしまった。






「え、何。あの人なの?」




「そ、そうだよ」





ちょっと聞こえるってば。


そう言うと、お母さんは


さっきにも増して、


はしゃぎまくる。


そんなあたしたちに気付いた


蓮哉は、じっとこっちを見ていて。






「名前、何て言うの、彼」




「牧瀬、蓮哉さん」




「蓮くーん」





お母さんはそう言って、


蓮哉に小さく手を振る。


向こうの方で蓮哉は、


ペコペコ頭を下げている。





「お、お母さん。もう行っていいから」




「あら、そう?じゃ帰るね」





去り際にもう1度、


向こうにいる蓮哉に手を振り、


スキップしそうな勢いで、


来た道を戻って行った。







< 72 / 152 >

この作品をシェア

pagetop