めぐりあい(仮)
もう、お母さんってば。
でもお母さんのおかげで、
少し緊張が解けた。
「ごめん、お待たせしました」
「さっきの、お母さん?」
「うん、そう。ごめんね、騒いで」
そう言うと、蓮哉は
ふっと笑って。
「誰かさんと違って、すごい美人だな、お母さん」
と言った。
「そうかな?…て、誰かさんって、ちょっと」
「行くぞ」
蓮哉は何も言わずに、
縁日に向かって歩いて行った。
ちょっと、待って。
あたし、今日頑張ったんだけどな。
浴衣も着たし、髪も上げて。
お母さんの香水も、
少し付けて来たのに。
「遅っせぇな」
前を歩いていた蓮哉は、
あたしの元まで戻ってくると。
首を傾げ、近付き。
「いい匂いすんじゃん」
耳元でそう囁いた。
そして意地悪く笑って。
「いいんじゃね、それ」
そう言って、浴衣の裾を
ちょんちょんと引っ張った。
たったそれだけなのに。
「本当?」
あたしは嬉しくて、
嬉しくて仕方なかった。
そんなあたしを見て、
取り消すなんて、
意地悪を言う蓮哉。
だけどそんな言葉なんて
あたしの耳に届かなかった。
「ね、焼きそば食べたい」
「お前さっきたこ焼き食っただろ」
「えー、じゃあかき氷」
「腹壊すから、やめろって」
とかなんとか言って。
あたしが欲しいものを、
全部買ってくれる蓮哉。
だから両手に、
焼きそばとかき氷。
「ね、次ね、綿あめ…」
「いや、それはやめとけ」
あと少しで綿あめの屋台があるのに、
引き返そうとする。
遠くからだけど、
屋台の前にはたくさんの
綿あめが並んでいて。
屋台のお兄さんが、綿あめを
色んな形や色にしてくれている。
そんな珍しい綿あめ、
食べなきゃ損じゃない。
「えー、行こうよ、あそこ」
「あそこじゃなくても、他にもあんだろ」
どうしても渋る蓮哉。
仕方なく。
「じゃあここで待ってて」
あたしは1人で行くことにした。
だってどうしても来てくれないし。
でもどうしても綿あめ欲しかったし。
「すいませ~ん」
「あ、ちょっと待ってね」
屋台のお兄さんは、
蓮哉よりも明るい髪色で、
顔だけ見ればチャラい人。
「ほら、出来たぞ」
「お兄ちゃんありがとう」
「おう、またな」
だけど綿あめを買いに来てた
子どもにすごく優しくて。
接客もすごく上手で。
全然チャラいだけの人ではなかった。