めぐりあい(仮)
「何にします?」
「何でもしてくれるんですか?」
「最大限、努力はさせてもらいますけど」
何の形にしようかな。
ハート?普通すぎるかな。
ウサギ?さっきの子どもと一緒か。
なんて考えていると。
「今日1人で来たの?」
「あ、いや、人と一緒に来たんですけど」
ここに来ない理由を、
どう説明しようかと考えると。
お兄さんは周りをキョロキョロと
見渡して。
あの人?と聞いてきた。
その人が指差す方向には、
蓮哉がいて。
そうです、と頷くと。
「蓮哉さん!」
と、大声で叫んだ。
あたしは、何でこの人が、
蓮哉を知っているのかに驚いて、
お互いの顔を交互に見た。
「え、何で来てくれないの?」
「分かんないです。他にも綿あめ売ってるだろって…」
「うわ、ないわ、それは」
そう言ってもう1度、
蓮哉の名前を大きい声で呼んだ。
それに気付いた蓮哉は、
あたしたちに背中を向け、
あくまでも聞こえていないふりをする。
「君、名前何て言うの?」
「吉川妃名子です」
「蓮哉さーん、来ないと妃名子襲いますよ~?」
お客さんのことなんか気にせず、
お兄さんは蓮哉に向かって、
大声で叫び続けた。
「妃名子の連絡先、聞きますよ?いいですか~?」
それでも聞こえないふりをする。
するとお兄さんは、
楽しそうに笑って。
「ってことで、本当に連絡先教えてもらえる?」
と、携帯を取り出す。
「え、あの…」
「もうすぐ休憩だからさ、よかったら…」
「健、それくらいにしとけ」
戸惑っていると、
急に隣に肩を並べる蓮哉。
あたしの肩に手を置き、
目の前のお兄さんを睨みつける。
「やーっと来ましたね、蓮哉さん」
「うるせぇ、黙ってろ」
「にしても、自分はこんな可愛い彼女とデートで、こんな仕事俺に押し付け…」
「ばっか、言うなって」
慌ててお兄さんの頭を
叩くと、蓮哉はあたしの顔を
じっと見つめ、何でもないと言った。
「何が何でもないの?」
「毎年蓮哉さんが、綿あめの屋台やってんだよ」
お兄さんはどうだと言わんばかりに、
蓮哉に向かって笑顔を向ける。
蓮哉は言われたくなかったのか、
片手で顔を隠し、下を向いた。
「そうなの?」
「…健、お前覚えてろよ」
怒ってるのかと思いきや、
案外楽しそうに会話する2人。
あたしはその間に入れず、
ただ眺めるだけ。