めぐりあい(仮)





「わー、これ可愛い」





台の上に並んでいるものを


見ていると、手作りであろう


キーホルダーが並べられていて。


ビーズと糸で綺麗に


仕上げられているそれを、


あたしは心底気にいってしまった。





「買うか?」





そんなあたしを見て、


気を遣ったのか、


そんな一言をくれる蓮哉。





「じゃあ、蓮哉とお揃いがいい」





「は?別に俺…」





「いいじゃん。ね、買お?」






嫌がる蓮哉に無理矢理お願いし、


あたしのを蓮哉が、


蓮哉のをあたしが買うことに。


ありがとうございました、と


屋台を後にすると、


街灯の下でお互い交換した。






「携帯に付けようね」




「お前だけ付けろよ」




「なーんで。いいじゃん、付けようよ」






形だけでよかった。


一緒にお祭りに来たっていう、


証拠を残したかった。


来年、再来年が来たって、


隣に蓮哉がいないかもしれない。


楽しかったっていう思い出を、


今は思い出だけで終わらせたくない。






「仕方なくだからな」






渋々付けてくれた、


あたしと色違いとキーホルダー。


付けてくれた。


ただそれだけなのに、


何だか嬉しくて顔が緩んだ。






「外さないでね」





「とか言って、妃名が外してたら、知らねえからな」






外すわけ、ないじゃない。


あたしは笑ってみせた。


急に悲しくなったから。







「そろそろ花火だな」





「うん。そうだね」






そんなことを言っていると、


まもなく空に花火が舞い散った。


大きな音とともに、キラキラ夜空に、


華が咲いた。






「俺、結構花火好きなんだけど」





「あたしも、好き」





気付けば蓮哉を見ていた。


変わり変わりする花火に、


いちいち表情を変える彼を、


心の片隅で愛しいと感じた。


素直に綺麗だと思った。


いつもと同じ蓮哉なのに、


何だか違う気がした。


ただ横顔を見ているだけなのに、


妙にそわそわして、


変にドキドキして。






「お前、今日帰って吐くなよ」




「何で吐くのよ」




「食い過ぎてたろ。どう見ても」




「え、あたし、まだお腹余裕なんだけど」





そう言ってみせると、


蓮哉はおかしいと言いたげな顔で、


あたしを見ていた。


こんなやり取りがすごく楽しくて、


本当に仕方なかった。






「また来るか」




「ん?何?」




「…何もねえ」






きっと悠太郎だったら、


こうして堂々と外に出られない。


土を踏むこともなく、


屋台を回ることもなく、


ただ遠くで花火を見つめるだけ


だったに違いない。


それが嫌なんじゃない。







「帰るか」




「うん」






そんなあたしと一緒にいる悠太郎に、


苦しい思いをさせたくない。


せめて外の空気を堂々と吸って、


何が大切なのかに気付いてもらいたい。


きっとこれは、


あたしの最後のわがまま。


最後の、お願いだから。





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