めぐりあい(仮)





祭が終わった後の寂しさを


会場に残し、蓮哉とあたしは、


微妙な距離で去ることに。


手を繋ぐわけでもなく、


肩を抱かれるわけでもない。


少し肩が触れ合う距離で、


ずっとゆっくり歩くあたしたち。





「今日すごい楽しかった」




「お前はしゃいでたしな」




「浴衣も久々着れたし」





初めてというか、


久しぶりというか。


この気持ちの高ぶりの理由って、


もしかして。






「お前この後、」




「え?」





その時。






「電話?」




「あ、あたしだ」





静寂の暗闇の中、


バイブ音が鳴り響き、


震えているあたしの鞄の中から


そっと携帯を取り出した。


ディスプレイに出た名前を、


一緒に覗き込む蓮哉。






「もしもし」






見慣れた悠太郎の名前を見ると、


蓮哉は少し距離を取って、


黙って佇んでいる。






『妃名子?ごめん、今大丈夫?』





「急ぎかな?じゃなかったら後で…」





『今から会えない?』






さっきとは違う胸の高鳴りが。


高鳴りというよりも、痛みが、


体を駆け巡っている。







「今から?」





『うん。無理?』





どうしよう。


どうやって断ろう。


きっとここで蓮哉の名前を出せば、


きっとまた関係のない蓮哉が


責められてしまう。


でも断り方が分からない。






「…分かった。少し遅くなるけど、大丈夫?」





『大丈夫。じゃあ待ってる』






切れた携帯を見つめて、


少しの間何も言えず黙り込んでしまった。


何か言わなきゃ。


何か、言わなきゃ。






「悠太郎が…会いたいって」





「木嶋さん?」





こくりと頷く。


すると蓮哉はあたしの目の前に立ち。


そっと手を伸ばし、


触れるか触れないかの所で


拳をぐっと握った。






「そうなるよな」





「え?」






消え入るような小さな声で


何かを呟くと、蓮哉は軽く


ため息を吐いた。






「気を付けてな」





「蓮…、」





蓮哉はあたしに背を向けると、


何も言わず去って行った。






「待って…っ」






声をかけて呼び止めてみたけど、


蓮哉は振り向くことはない。


何、この喪失感。


もう背中も見えなくなって、


体に穴が開いた感覚に襲われた。


今すぐに悠太郎の元に行かないと。


なのに体は言うこと聞かなくて。


悠太郎の家に着いた時は、


蓮哉と別れたあの場所から、


1時間近く経っていた。






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