めぐりあい(仮)
「ごめん、遅くなっちゃった」
「俺こそ、急に呼び出してごめん」
さ、入ってと部屋に通され、
少し遠慮気味に中に入る。
「浴衣着て、祭でも行ってきたの?」
「うん。さっきまで行ってきた」
悠太郎がいるこの空間が、
少し苦しく感じた。
何でここにいるんだろうって。
そう感じている自分がいた。
「楽しかった?」
「うん。色々食べて来た」
楽しそうに笑う悠太郎。
あたしはそんな彼を見て、
何も感じない。
喜びも、嬉しさも、愛しさも。
ただ今気になるのは、
去って行く時の何か言いたげな、
蓮哉の姿だけ。
「風呂溜めてくる。入ってくよね?」
なんて言いながら部屋を
出て行く悠太郎。
今だ、と思い、
携帯を取り出す。
気にしないでおこうと思うほど、
頭の中に蓮哉が出てくる。
そういえば、
何か言いかけてた気もする。
「……」
コール音が鳴り響く。
こんなにも人に電話をかけて、
ドキドキしたことないと思う。
『何?』
「あ、蓮…」
悠太郎が戻ってくるんじゃないか、
っていうドキドキと。
蓮哉に何を言おうかっていう
ドキドキが交差する。
「ごめん、あのね…」
その時。
あたしの耳に聞こえてきた、
蓮哉の名前を呼ぶ、
女の人の声。
『何お前、甘えてんの?』
少し掠れる声でそういう蓮哉に。
くすくす嬉しそうに笑う女の人。
「蓮哉…今、どこに…」
『お前に関係ねぇ』
もう切るわ、と。
ぷっつり電話を切られ、
無機質な音だけが聞こえる。
一気にこみ上げる、
分からない思い。
同時にこみ上げる、
分からない涙。
「何、で…」
「妃名子、もうすぐ溜まるよ」
ひょっこり顔を覗かせた悠太郎に。
「ごめん!お母さんが急用だって、あの…帰るね」
何を言ったかは覚えていない。
頭にあったのは、
まだ蓮哉から離れて1時間くらいしか
経ってないから。
その辺を捜せばいるんじゃないかって。
もう1度電話をかければ、
来てくれるんじゃないかって。
「もしもしっ…」
『まじ、何なのお前…』
繋がった電話の向こうから、
聞いたことのないくらい、
感情のない声が聞こえてきて。
「あ、あのっ」
『俺、今忙しいから。電話かけてくんな』
またしても切られる電話に、
ただひたすら涙を流す。
何で、どうして。
さっきまで笑ってたのに。
さっきまで、隣にいたのに。