めぐりあい(仮)





完全に動揺している。


女の人のことも、


感情のない声も。


乱れる浴衣なんて気にしない。


髪も結ってあるのが解ける。


ぐちゃぐちゃで、


ぼさぼさで。






「わっ…、」





慣れない下駄でつまづき、


その場にこける。


泥のついた浴衣に、


手は擦り剝けていて。





「痛い…」






いつの間に、


蓮哉に依存していたのだろう。


いなくならないと思っていた。


蓮哉は傍にいる、と。


そう思っていた。






「帰らないと…」






蓮哉にだって人生はある。


あたしだけじゃなくて、


彼女だって、好きな人だって、


知らない友だちだっている。


あたしが踏み込めない場所もある。


だけど、実際にそれが分かった今、


ただ残ったのは寂しさだけで。


理解してるなんて、嘘で。


蓮哉がいないと何も出来ない。


いつの間にかあたしは、


蓮哉に全部支えられていた。


いつからか、


蓮哉はあたしの居場所だった。







「何落ちてんの」





「落ちるでしょ、これは完全に」





それから数日が経ち。


学校で鳴海に、祭の日のことを


全部話した。


あの日から1週間は経っている。


だけどあたしは、落ち込む一方。


あれ以来怖くて連絡は出来ないし、


メールも何て送ったらいいかなんて


分からない。


ただ出来るのは、


ぐちぐち悩むことだけ。


むしろ、悩む理由を


知りたいくらい。






「こんな時に言うのも変かもしれないけど」




「うん。何?」




「やっぱ千秋さんに直接聞いた方がいいと思う。放課後、空いてるよね?」





いいえ、と言わせない勢いで、


約束を入れられる。


よく考えたら、


なんやかんや蓮哉とは連絡を


取ってたな、なんて。


毎日携帯が鳴らなくなって、


夢じゃないんだなって。






「ごめん、待たせて」





「お疲れ様ですっ」





待ち合わせのカフェに、


急いで入って来る千秋さん。


ネクタイを緩め、


コーヒーを注文。






「妃名子ちゃんごめんね」





わざわざ来てもらって。


そう言う千秋さんに


こちらこそと頭を下げる。


運ばれてきたコーヒーを飲み、


一息ついたところで。





「蓮哉さんのこと、教えてもらえます?」





鳴海は真剣な顔で千秋さんに言った。


結構静かな空間で、


重たそうに口を開く。





「最近様子が変なんだ」




「変?蓮哉の?」




「ずっと夜遊んでる」






それを聞いてよみがえる、


あの日の電話の向こうで


掠れる蓮哉の声と、


くすくす笑う女の人の声。






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