めぐりあい(仮)






10月に入り、


少し肌寒い季節になった。


会いに行く。


そう決めてからもう


1週間近くが経っていた。


行こうにも行けず、


ずっと悩んだまま時間だけが過ぎ。





「妃名子、蓮哉さんに会いに行くんじゃないの?」




「…行きます」




「今日こそ行ってきなよ」





こういうことは早く動かないと。


鳴海に何度もそう言われ、


渋々今日行くことを決意。


途中まで一緒に歩く鳴海。





「今日千秋さんと?」




「そう。久々にね、ご飯行くの」





嬉しそうに話す鳴海。


少し羨ましくなる。





「何かあったらいつでも連絡してね」




「うん、ありがと」





じゃあねと鳴海に手を振る。


去っていく背中を確認してから、


蓮哉の家の方に向かう。


もうすでに辺りは暗い。


向かう足取りも、すごく重い。


少なからず緊張している。


こんなに蓮哉に会わない日は


なかったから。






「怖いな」





来る途中に買った飲み物を片手に、


マンションの階段を上る。


一応インターホンを鳴らしてみるが、


思った通り中にはいない。





「待つしかないか…」





特別なマンションなわけじゃなく、


イスもなければ温かい場所も


あるわけなく。


まだ10月とはいえ、


夜にもなれば肌寒い。


夜空には綺麗な星が瞬いていて。


だけどあたしの心の中は、


どんより曇っている。


何でこんなことまでして、


あたしは蓮哉に会いたいんだろう。


どうしてここまで気になるんだろう。


そんな時、ふと浮かんだ鳴海の言葉。


夏に言われた、


好きなんじゃない?の一言。


あの時は、そう言われて、


蓮哉を少し意識しただけだった。


だけど最近、自分の気持ちが


見えなくて。


何でドキドキしてるのかなって。


何でこんなに苦しいのかなって。


この間鳴海の言ってた、


"妃名子の気持ちと同じだよ"


の言葉も頭に浮かぶ。


言われた時は意味が分からなかった。


だけど今なら分かる気がする。


千秋さんに会いたいと思う気持ちと、


あたしが蓮哉に会いたい思いが


一緒だってことだよね。


好きなんでしょ?って、


言われたってことだよね。


改めて自分で考える。


何でドキドキしてるの?って。


何でこんなに苦しいの?って。





「…好き、」





好きなんだ。


あたし蓮哉のことが好きなんだ。


そう思い始めると、


頭に浮かぶ蓮哉の姿。


初めて会った蓮哉、


一緒にご飯を食べた蓮哉、


隣で寝てくれた蓮哉。


そして、キスをしてくれた蓮哉。


全部、全部、あたしのために


何かしてくれていた。


それが当たり前になっていて。


いなくなってから気付いた。


彼が、蓮哉がどんなに大きい


存在だったかということを。


気付くのが遅すぎた。






「遅いな…」





蓮哉の家に着いてから、


気付けば4時間。


時計を見れば、もう夜の10時過ぎ。


あっという間の4時間だった。


電話をしてみようかと


携帯を取り出して。


お揃いのキーホルダーを


ぎゅっと握りしめる。


大丈夫。


きっと蓮哉は、


また笑ってくれる。


その時、1台の車が駐車する


音が聞こえ、階段を上る


足音が聞こえてきた。




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