めぐりあい(仮)






「さっさと帰れ」




「嫌だ…帰らない」




どうしてこんなことするの。


どうしてこうなっちゃったの。


ねえ、蓮哉。


何で…?





「木嶋さんと仲良くしてろ」




「蓮っ…」





蓮哉は1度だけ強く振り払い、


あたしを見ることなく


家の中に入って行った。


あたしは呆然と立ち尽くす。


何が何だか分からない。


千秋さんが言っていたことは


本当だった。


様子が変、っていう所じゃない。


おかしすぎる。


いつもの蓮哉じゃない。





「キーホルダー…っ」





落とされたキーホルダーを探しに、


あたしは急いで階段を駆け降りた。


必死に探してやっと見つけたそれは、


もう戻すことの出来ない形になり、


静かに地面に伏せていた。


そっと拾うと、なぜか腰が抜けて、


地面に座り込んでしまう。


雨の降った後なのか、


コンクリートが少し濡れていて。


制服が泥だらけだけど、


もうどうでもよくなった。





「何で…、どうして…」





悔しくて涙が止まらない。


好きだと気付いた途端、


こんなことになって。


蓮哉に何も言えなくて。


あたしに出来ることが、


見つからない。





「吉川?」





「……え、」





突然名前が呼ばれ、


咄嗟に顔を上げる。


思えば涙で顔はぐちゃぐちゃだし、


制服もぐちゃぐちゃ。


こんな暗闇の中なのに。





「朝陽…?」





こいつはあたしを見つけた。


こんなに真っ暗なのに。


こんなに誰も通らないような場所で、


車で見えないような場所なのに。





「お前っ…何してんだよ!」





自分の乗っていた自転車を


放り投げ、必死に駆けて来てくれた。


目の前で心配そうにあたしを覗くのは、


あたしの高校の同級生で、


柳田 朝陽という男。


中学校からの、いわば幼馴染で、


高校1、2年生の時に同じクラスだった。


今はもう引退してるけど、


バスケ部のキャプテンで、


爽やかなイケメンらしい。


あたしや鳴海には、普通にしか


見えないんだけど。


悠太郎に出会う前は、


たまに遊んだりもしてて、


結構仲の良い友だち。


そんな男が、今、なぜか


あたしの目の前にいる。






「何で、朝陽…?」




「偶然だよ。通りかかって…。それより、お前こそっ」




朝陽がそこにいることなんて。


今のあたしにはどうでもよくて。


そんなことより、


目の前にある壊れたキーホルダーの


ことの方が気になる。


部屋にいる蓮哉のことが気になる。


あの綺麗なお姉さんの方が、


朝陽のことよりももっともっと


気になって仕方がない。






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