私のことは、ほっといてください
ここは、本当に穴場だ。客もまばらだし、端っこの席にいる私に注目する人なんて誰もいない。公の場でありながらも、人の目を気にすることもなく漫画に没頭できる。
日常の嫌なことも、仕事のことも忘れて。今だけは頭の中を思う存分恋愛モードに切り替える。
切なさに胸がキューってなって、スンと鼻をすする。それから熱くなった目頭を指でそっと拭ったその時。
「すごい。漫画で本気泣きする人、初めて見た」
ハッと我に返った私は慌てて本を閉じ、声がした方を見る。
「新見(にいみ)くんっ?」
「よ。おつかれ」
隣の席から身を乗り出していたのは会社の同期、新見くん。どうやら横から私の漫画を覗き込んでいたらしい。
「いいいいつから、そこに?」
「5分くらいかな? 楠木さん、真剣に読んでたから、声かけるの悪いかなって思って」
「そっ、それはお気遣いありがとう……。じゃ、私はこれで」
「えっ?」と、戸惑う新見君を尻目に、鞄を持ち、サッと立ち上がる。
ヤバいヤバいヤバい。頭の中で警報機が鳴り響く。
早くこの場から逃げ出さなければ、そう思い一歩足を前に出したところで、新見君に腕を掴まれた。
「忘れ物」
「えっ?」
「はい、『ラブきゅん』」
差し出されたのは、さっきまで私が読んでいた漫画だった。
日常の嫌なことも、仕事のことも忘れて。今だけは頭の中を思う存分恋愛モードに切り替える。
切なさに胸がキューってなって、スンと鼻をすする。それから熱くなった目頭を指でそっと拭ったその時。
「すごい。漫画で本気泣きする人、初めて見た」
ハッと我に返った私は慌てて本を閉じ、声がした方を見る。
「新見(にいみ)くんっ?」
「よ。おつかれ」
隣の席から身を乗り出していたのは会社の同期、新見くん。どうやら横から私の漫画を覗き込んでいたらしい。
「いいいいつから、そこに?」
「5分くらいかな? 楠木さん、真剣に読んでたから、声かけるの悪いかなって思って」
「そっ、それはお気遣いありがとう……。じゃ、私はこれで」
「えっ?」と、戸惑う新見君を尻目に、鞄を持ち、サッと立ち上がる。
ヤバいヤバいヤバい。頭の中で警報機が鳴り響く。
早くこの場から逃げ出さなければ、そう思い一歩足を前に出したところで、新見君に腕を掴まれた。
「忘れ物」
「えっ?」
「はい、『ラブきゅん』」
差し出されたのは、さっきまで私が読んでいた漫画だった。