私のことは、ほっといてください
恥ずかしさでカーっと頭に血が上り、無言で店を飛び出した。

気が動転してる。だって、いい歳してティーン向け少女漫画に夢中になってるだなんて! こんなこと知られたら、絶対バカにされる。もしくは、会社でネタにされてしまうかもしれない。

『あいつ、外で漫画読んで、泣いてんだぜ? 超ウケる』的な感じで。

ああ……その様子が目に浮かぶ。

新見圭介(けいすけ)。私とは同期入社の同い年。
彼が他部署からうちの課に配属されたのは、2ヶ月前。まだ残暑が厳しい時期だった。
体育会系で爽やかそうな人。それがおそらく誰もが感じる彼の第一印象。誰とでもすぐに打ち解けるコミュ能力の高い、典型的なリア充。

はっきりいって羨ましい。新見君みたいな性格だったら、私の生活ももっと充実していたのかな。


ああ、それにしても。本当にヤバい。あんなところを見られるなんて。絶対、引いてる。

どうしよう、どうしよう、どうしよう……。

あれ? でも……。と、早歩きしていた足が、ふいに止まった。

鞄の中を覗き込む。
そこにはさっき新見君から手渡された『ラブきゅん』が入ってるのだけど、その表紙は見えない。だって、カバーがついているのだから。

外で読む時はいつも、書店で買う際に、「カバーをつけてください」ってお願いしているのだ。

つまり何が言いたいかというと。

新見君は……なんで、この漫画のタイトルがわかったのだろう?

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