恋のキッカケ
「ここで待ってて、俺、カバン取ってくる」
「うん」

 エレベータの前で私は茫然と立っていた。

 あれはなんだったんだ。秋山さんたちに絆されて、なんとなく流れでか。それとも私を好き? いや、それはない。安田は私をいつもからかうし、仕事以外で飲んだこともないし。じゃあ、なんだったんだろう。

「お待たせ」

 私の横に立つとエレベーターのボタンを押し、当たり前のように私の手を握った。

「安田、これ、なに?」と言って、繋いでいる手を前後に振る。
「手を繋いでる」
「なんで私と安田が手を繋がなくちゃいけないのよ。さっきのだって、なんとなくその場の雰囲気で、でしょ?」

 安田は少しムッとした表情をした。そしてなにかを言うために口が開いた瞬間、エレベータのドアも開いた。

「乗るぞ」
 私は安田に手を引かれて、エレベータに乗った。

「あのさ、高木から見て、俺って誰とでもこういうことするタイプに見えるの」と言いながら、私の目の前で繋いでいる手を揺らす。

「そんなことは思ってない。安田は真面目だから、誰彼構わず、こういうことはしないと思う」
「なら、分かってるよな」

 もっとはっきりしたことを聞こうとした時、エレベータが開いてしまった。結局、何も聞かないまま駐車場へ引っ張られるように歩いた。安田はポケットから鍵を出し、ロックを解除すると助手席に私を押し込む。自分も運転席に乗り込むと、車を発進させた。
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