いん・ざ・ぼっくす
隅にある大きなダンボール。たしかに、人が入れそうな大きさではあるが。

「今度は秘密基地? なんで話がそうあっちこっちに飛ぶかな~?」

「うわっ、中、空っぽっすよ。これ、入ってくれって言ってるようなもんじゃん」

「いやいや。普通、入んないでしょ」

「お邪魔しまーす」

おいおい。人の話、聞けよ。

私の忠告を無視し、彼は片足ずつダンボールの中に入っていった。そしてしゃがみこむ。
頭頂部のクセッ毛がピョンと跳ねているのだけが見えている。

「美野里さんも入りませんかー?」

「はっ? 何で?」

「意外に楽しめるかもしれないっすよ? 新しい世界への扉を開きましょうよ」

「開かなくていいから」

カンベンしてよ。自分ひとりで楽しむのは勝手だけど、私まで引きずり込まないでくれ。

呆れながらもじっとダンボールの方を見つめる。

すると、縁に手がかかったかと思ったら、垣内がピョンと顔だけを出してこちらを見た。

「美野里さーん。おいでよ」

まさに愛玩動物そのもの。箱に入った子犬が尻尾振っておねだりしてる。

ねぇ、これを拒める人っているの?

もう、負けだ。

「わかった。ちょっとだけだよ」

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