いん・ざ・ぼっくす
こんなところ見られたら、さすがに言い逃れできない。

私は上司で、垣内は部下で。今は仕事中。なのに、ふたりはダンボールの中。

見つかったら、どんな噂を立てられることか……。

緊張がピークに達する。
ギュっと固く目を閉じたその時、スマホの着信音らしき音が響いた。

「見つかったって! 田中さんが持ってたらしい」

「なーんだ」

ふたりの声が遠ざかる。やがてドアがパタンと閉じられた。

「はぁああああ。もう、なんなの、なんなの!」

私は勢いよく箱の上部を開けて、外に顔を出す。新鮮な空気を思いっきり吸い込んだ。

「もう! 垣内のせいで散々だよ!」

立ち上がろうとした私の肩を、垣内が掴んで強引に座らせる。

「ちょっと待って」

「な、何?」


ジリジリと近寄る彼。

逃れようとのけぞるものの、ここはダンボールの中。すぐに背中が側面にぺったりとついてしまった。

垣内はダンボールの縁に腕を伸ばすと、私の体を囲う。
いつもの愛玩動物のような愛くるしい顔じゃなくて。その表情があまりにも真剣なものだから、私は身動きが取れない。

じっと見つめられ、彼の顔が近づいてくる。

「か……垣……」

ひょっとしてキスされる?

そう思った瞬間、

コツンと当たったのは、彼と私のおでこ。

「やっぱり。美野里さん、熱がある」

「えっ……」

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