業務報告はキスのあとで

「へ?」

 私の口からは、つい、間抜けな声が出た。そのくらい、驚いて、信じられなくて、何かの聞き間違いだと思ってしまうような言葉だった。


「い、今……何て言いました?」


 もし、仮に。絶対あり得ないけど、もし、仮に。私の聞き間違いじゃなかったとしたら〝俺とさ、付き合ってみない?〟と、そう、言ったような気がする。

 まあ、でも。ただ〝気がした〟だけ。そんな事はあり得ない。あり得るわけがない……と、思ったのに。


「だからさ、俺と付き合わない?って言ったんだけど」


 どうやら、私の聞き間違いでは無かったらしい。


「何言ってるんですか」


 相手にしてはいけない。真に受けるな。そう、自分に言い聞かせてポーカフェイスを保つのに必死な私。

 そんな私の気を知ってか知らずか「割と真剣に言ってるんだけど」なんて、真っ直ぐ私を見る平岡さん。


「……絶対嘘だ」


 まるで嘘にしか聞こえない。

 さっきだって手島さんに、こいついつもこんなだからって言われてたし。今朝も、女の人にクソ男だなんて言われてた。


「そういう軽い人、嫌いです」


 いくら格好良くたってそんな軽い人の言うこと信じるわけないし、信じたくもない。


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