業務報告はキスのあとで

最後に付け足された〝色々と〟という言葉が少し引っかかり、意味を問うけれど


「じゃあ、また明日」


なんて言って去っていく手島さんにこれ以上聞くこともできず、私はまたパソコンと向かい合った

そして、カタカタと音を立てながら再びパソコンのキーボードを打ち始める


すると


キーボードを打ち始めて間も無く、私の背後に感じる気配。

その気配を放つのは誰なのか、考えながら仕事を続けていると「あれ、胡桃ちゃんも残業?」と、平岡さんの声。


ああ、平岡さんか……なんて、ほんの少しだけ肩を落とす私。


「資料、まだ終わらないので」


後ろにいる平岡さんにはそう適当に答え、私はすぐにキーボードの上へと両手を置く

そんな私なりの〝話しかけないで欲しい〟という行動を彼は察せないのか、あるいは敢えて察さないのか


「胡桃ちゃんって頑張りやさんだよね」


平岡さんは平然と私に語りかけてきた。


「……別にそんな事ないです」


カタカタッ───


「いやいや、だって他の子絶対残業とかしないもんね。ほら、あの辺の女子達」


キーボードを打っていた手を止め平岡さんを見ると、平岡さんの指す〝あの辺〟というのは堂島さんや牧野さんを始め、派手めな女子達の席が集まる辺りだった

< 51 / 350 >

この作品をシェア

pagetop