業務報告はキスのあとで


───コツ、コツ、コツ。

 まだ履き慣れていない私のヒールの音が廊下中に鳴り響いている。

 会議室に、お手洗いに、応接室。それらを通り過ぎていく私の目の前を歩いている平岡さんの背中を追いかけるように付いて歩いていると、平岡さんが突然ピタリと足を止めた。


「まずは、ここね」

「あ、はい」


 平岡さんが立ち止まり、開いた扉のプレート部分には〝資料室〟と表記されている。

「はい、どーぞ」

「ありがとうございます」

 扉を抑えてくれている平岡さんに軽く頭を下げ、私は先に資料室へと足を踏み込んだ。続いて、平岡さんも入ると、バタンという音を立てながら扉は閉まった。

 部屋の中は資料室とだけあって沢山のファイルと様々な資料が並べられている。ブラインドの隙間から入り込む僅かな光が直射する場所にある資料は焼けて色が茶色くなっていた。


「資料室は、事務だとかなり使うと思うから先に案内しておいた方がいいかなーって思ったんだけど」


 まあ、そんなことは置いといて。と、平岡さんは不敵な笑みを浮かべると、ほんの少しだけ私に近づいた。


「な、何ですか」

 ほんの少しどころか、止まることなくどんどん私に迫ってくる平岡さん。私は、そんな彼の行動に戸惑いながら、少しずつ後ずさった。

 平岡さんが一歩私へと近づく度、私は一歩、また一歩、と引き下がる。

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