最後の日

「ありがと。中村部長がお酒とかくれちゃってさ」

 花束と鞄だけを抱えて私も中へ乗り込む。再びチンと軽やかな音を立てて扉が閉まった。

「酒飲めるのか?」

「程々にとは言われてるけど止められてはないよ。それ、黒龍のひやおろしなんだって」

 お酒は好きだし強い方だ。これは営業の職でも大いに役立ってくれた。部長もそれを分かっているからこんな餞別をくれたんだろう。

「いい酒もらってんなあ」

 羨ましそうに相澤が言ったところで、三たびベルの音がして扉が開いた。電子表示は35Fとなっているので、別の会社のフロアだ。

「え?」

「嘘だろ?」

 二人して思わず素っ頓狂な声が出る。
 三十五階のエレベーターホールは何があったのか人でいっぱいだった。扉が開くと同時に狭い箱の中にガヤガヤと人が雪崩れ込んでくる。

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